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養育里親さんについて考えてみた


※ここでは、養子縁組里親、親族里親の話はしません。養育里親についてのみ、お話しさせていただきます。


養育里親って?

「里親」と聞くと、「血のつながっていない人が親になる制度」みたいに感じられると思います。しかし、養育里親は少し意味合いが違います。

養育里親は、養子縁組を目的とせずに、要保護児童を預かって養育する里親です。基本的には、実親の元で暮らすことができるようになるまで、要保護児童の世話をします。そのため、委託期間はまちまちで、長い場合は成人になるまで委託を続けるケースもあります。数週間や 1 年以内など短期間委託するなど、ニーズに応じた多様な里親委託ができます。

かなりざっくり言うならば、「児童養護施設、里親バージョン」という風に捉えてもらえるといいでしょう。養育里親さんは、乳幼児の一時保護委託(一時保護所の代わりに一時保護すること)や、里親委託措置(親権はそのままで、里親家庭に居所を変更すること)などをするのです。(↓参考リンク)

特別に必要な資格はないようですが、里親になるための研修を受けなければなりません(当然ですけど)。

また、里親になっても、すぐに子どもの養育をすることができるわけではありません。各地域管轄の児童相談所から委託の依頼を受けて、その後、やっと子どもの養育をすることができるのです。

また、養育里親で経験を積み、「専門里親」として仕事をされる方もいれば、より多くの児童を受け入れることができるファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)を運営されている方もいます。


ここからは、養育里親について、私の個人の見解を書いていきます。

↓ 


養育里親のメリット①家族と過ごす実感ができる

厚労省は、「児童養護施設の小規模化」や「里親委託の推進」を進めています。

そのメリットとして、子どもが家庭、家族がどういう存在なのかを実感することができるという点です。多くの要保護児童は、家庭が機能不全に陥っていたり、虐待やDVが横行していたりと、適切な家庭環境とは言えない状況で育っています。これによる弊害として、「そういう家庭環境しか知らないまま育ち、被虐待児が大人になり、自分の子に同じように虐待を繰り返してしまうリスク」があります。子育てをするうえで、自身が受けてきた養育の形の影響は大きいものです。だからこそ、「家庭的養育の形」を実感することが大切なのです。

また、児童養護施設と違い、養育里親は超小規模です。そのため、委託された子どもに目が届きやすく、手をかけて養育してもらうことができます。子どもに「家族に見守られて育つ」という経験を増やすことで、子ども自身に安心感が生まれ、精神的に健全に生活ができるのです。



養育里親のメリット②「帰る場所」ができる

児童養護施設は、職員さんがシフト制で動き、日によって寝泊りをする大人は異なります。また、職員さんは(法人内の)人事異動だったり、離退職だったりで、入れ替わりがあります。私のいた児童養護施設では、この10年ほどで、半分以上の職員が入れ替わり、施設に出向いたところで、私のことを知っている職員さんに出会えるかどうかはわかりません。

一方、養育里親は、一つの家庭であるため(転居や離婚でもしない限り)世話をしてくれた方が変わることはありません。つまり、大きく成長した後に尋ねたら、出会えるということです。

要保護児童のほとんどは、精神的に親に頼ることができません。心の支えを持たずに巣立っていくことが多いのです。そういう子どもにとって、こういう「帰る場所」があることは、心の支えになります。養育里親ならではのメリットですね。



養育里親のデメリット①「合わない」時の逃げ場がない

しかし、いいところばかりではないのが、養育里親です。

養育里親は、あくまで「家庭」です。そこで子どもを受け入れるということは、小さな家族と、個人の新しい人間関係が始まるということです。新しい家での同居が始まるわけですから、どうしても、そこには「家族との人間関係」が強く出てきます。養育里親内の人間関係は常に一定で、そこで上手くいかなかったとしても、逃げ場はありません。

児童養護施設であれば、他の人間関係で緩和したり、同室のメンバーを変えたりして対応することができます。しかし、養育里親は、そうはいかないのです。

また、各里親さんには、それぞれの家庭内の明文化されていないルールがあり、それに従って家庭が運営されます。児童養護施設のように「日課」が居室に貼ってある、みたいなことは、おそらくないでしょう。この独自のルールに「合わない」場合も同様で、きついと思ったとしても、狭い家庭内で逃げ場はなかなかできません。そうなってくると、養育里親だけでは手に負えず、最悪の場合、児相に依頼して一時保護してもらう、という手段に出なければなりません。


このように、「合わなかったときのリスク」が大きいため、里親委託措置(一時保護委託を除いて)を講じる前には、児相が仲介して、しっかりとマッチングをしていくことが大切になります。



養育里親のデメリット②マッチングが難しい

私が児相で働いていて、養育里親さんと関わる上で意外だと感じたことが、「里親さん側に、受け入れたい子どもの要望がある」ということです。実子さんがいるかどうか、住環境はどうか、経験値はどうか、各養育里親さんで、状況は違います。当然っちゃ、当然の話です。

それに合わせて、マッチングをするのですが、児相も、養育里親さんがどのような家庭なのか、家族構成などを考えて委託先を決めます。子どもの性格や状況、養育里親さんの個性や能力を鑑みて、委託が適切かどうか判断しないといけません。

前述したとおり、「合わない」時のリスクが高いため、仮に「私はいつでもウェルカムです!」という養育里親さんがいたとしても、「じゃあ、すぐにでもお願いします。」とは、ならないわけです。(「じゃあすぐに」で決めちゃう児相担当者もいそうですけど、それは結構ハイリスクです…)


児童養護施設の場合、福祉職として就職した方が養育をするため、ある程度どのような子が来ても緊急で対応できますし、施設内で多様な対応ができます。しかし、里親さんは一つの家族なので、広い受け皿で柔軟に、ということは難しいのです。


その結果なのか、登録されている養育里親さんの半数は、委託児童がいない状態です。逆に、児童養護施設はなかなか空きがないような状態も続いています。(↓参考リンク)


小規模で家庭的な養育を目指せば目指すほど、「すぐに受け入れる」という行為から遠ざかってしまうのです。要保護児童は、緊急性が高いケースが多いので、児童養護施設に措置する方が、児相としても、迅速に対応でき、且つ安全、と判断するのかもしれません。



養育里親委託を、適切に増やすには?

私は、個人的には、養育里親推進派です。それは、養育の形、支援の形云々ではなく、自立した後に「帰る場所」を増やせるメリットが大きいと思っています。私は施設の出身で、今、施設に里帰りしても、そこにいる職員の大半は入れ替わっていますし、応接間に通されて、偉い人(施設長とか)と話すくらいしかできません。これって、結構さみしいんですよね。だから、養育里親さんが増えた方がいいと思います。


養育里親さんにもいろいろ課題があるので、一概に言えませんが、私が手っ取り早い方法だと思っているのは

・日本の多くの家庭が、1人の収入で、家庭を十分に養える経済状況になる

・里親さんの委託費(給与)を上げる

この二点かな、と。結局、お金の話かな、と思っています。養育里親さんに覚悟だけを求めてはいけないと思っています。養育里親は、児童養護施設に並ぶ、「子どものセーフティーネット」です。被虐待児、要保護児童など、何かしら心に傷を負ってやってくる子どもたちを支えてくれる方々なのです。覚悟をもって、困っている子どもたちを助けてくれる方には、それ相応の対価を支払わないといけません。

国のお偉いさん方には、国防よりも先に、児童福祉にきっちり予算を回して欲しいものです。外部から攻撃される前に、内部から腐ってしまいますよ。

そして、金に目がくらんで養育里親を始める人がいないように、ちゃんと審査したり評価したりするのは、行政並びに児相の仕事です。よろしくお願いします。



終わりに~「養育里親」をGoogleで検索すると…~

私が今回の記事を書くにあたって、Googleで「養育里親」と検索しました。Googleさんは、「そのワードを検索した人は、他に、このようなことを検索していますよ」と、お節介にも教えてくれるのです。

すると、「里親 お金目当て」「里子 かわいくない」「里親 子供 選べる」などと、ちょっと目を疑うようなワードがトップに上がってきたのです。

養育里親の課題は少なくなく、改善の余地はまだまだあるようです。

しかし、平成29年のデータで、5000人以上の子どもたちが、養育里親さんの下で生活しています。今現在も、同数程度の子どもたちが、養育里親さんにお世話になっているものと想像します。

私は、現場で子どもたちのために実働してくださっている方に、感謝の気持ちを忘れないようにしたいと思います。



いや~、書いてみて、これだけじゃ書ききれない!と思いましたが、とりあえず、今日はこの辺で。



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