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#23 遠い星で、また会おう。

※この作品は、フィクションです。




 ふと目が覚めた。真っ暗な部屋。隣では、浩介が寝息を立てている。目覚まし時計を見る。1時かぁ。あと4時間は寝れるなあ。そう思っていると、ドアの向こうから、水の流れる音がした。お隣さんかな?と思ったけれど、どう考えても、うちの中から音がする。しかも、この音は、台所の方からの音じゃない。

 風呂場…?

 疲れた体を起こして、ドアを開ける。歩くと、ミシミシと古い木造アパートの廊下がきしむ音が気になった。静かに、静かに、進んでいく。母さんの部屋のドアが開いている。また、静かに廊下を進む。台所に、中身のない薬の袋が何枚も置いてある。その横に、小さな紙きれが置いてある。


 ようすけ、こうすけ、ごめんなさい。いままで、ありがとう。おかあさん、死ぬね。


 そこで、初めて、事の重大さに気づいた。風呂場に急ぐ。電気をつける。母さんは、浴槽にもたれかかる様にうなだれて、その左腕の赤い縞模様に、蛇口の水を浴びせていた。浴槽の中に、赤い液体がたまり、洗剤の泡がたまっていた。母さんは、電気の明かりに驚き、俺の方を向いた。

 「母さん、なにしてるの!?」

 「お願い!死なせて!」

 「なんでこんなことするのさ!?」

 「もう、ムリ!死なせてよ!」

 母さんは、わんわんと幼児のように泣き出した。今まで見たことのないような、激しい叫びだった。俺は、急いでバスタオルを持ってきて、母さんの腕を押さえ、リビングに連れてきた。

 「なんで死なせてくれないの!?」

 「わかった、わかったから!」

 「もうムリなんだって!」

 「家のことは、俺がなんとかするから!大丈夫だから!」

 俺は、電話機をとって119番する。「母さんが、血を流して倒れてるんです!」と言って、初めて救急車を呼んだ。

 浩介が、何事かと起きてきた。母さんはしくしくと泣いている。

 「なにがあったの?」

 「ちょっと、説明は後。とりあえず、今から救急車来るから。あ、風呂場は見るなよ。」

 「なんで?」

 「いいから早く部屋に戻れ!殺すぞ!」

 浩介は、俺の表情を見て驚き、急いで部屋に戻る。その後、母さんが少し落ち着いてきた。母さんは、小さな声で「死なせてよぉ…。」とつぶやいていた。


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この物語は、著者の半生を脚色したものです。

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