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#45 遠い星で、また会おう。

※この作品は、フィクションです。



 朝9時半。予定通りの時間に、タクシーが家の前に到着した。中から松ヶ枝さんが出てきた。

 「洋介君、浩介君、おはよう。」

 「おはようございます。」

 「ちょっと、お母さんとお話ししてくるから、タクシーに荷物を詰め込んでおいてね。」

 「分かりました。」

 俺らは、荷物をトランクに詰め込んで、後部座席で松ヶ枝さんを待った。10月になったというのに、ひどく暑かった。タクシーの運転手さんはエアコンを効かせてくれていて、快適だった。カンカンと照りつける太陽と、雲一つない青空が、窓のガラス越しに見えた。このタクシーはきれいに掃除されていて、窓には汚れ一つ付いていない。手のひらを太陽に透かして、真っ赤に流れる血潮がみえるかな? と手をかざしたりしてみた。

 松ヶ枝さんが、タクシーに戻ってきた。玄関先には、母さんが立っている。俺は、窓を開けて、母さんに声をかけた。

 「母さん、入院中は、しっかり休んで、しっかり食べて、病気、治してね。」

 「うん。あんたたちも、頑張ってね。」

 「俺らは、しっかりやれるから大丈夫。じゃあね。」

 今まで素直に言えなかった言葉が、嘘のようにスラスラと出てきた。浩介が「兄ちゃん、嬉しそうだね。」と言ってきた。そうだ、俺は嬉しいんだ。


 見慣れた住宅地を抜け、大通りをしばらく走り、港の向こう側の街にやってきた。少し坂を上ったところでタクシーが止まった。浩介は、不安そうに松ヶ枝さんに尋ねた。

 「ここが、施設ですか? ちょっと学校から遠い気が…」

 「ここは、児童相談所よ。今から、検査を受けてもらうから。」

 「検査って?」

 「んー。なんていうかな。君たちの性格とか、考え方の傾向とかを測るテストみたいなものだよ。学校の成績とか、悪い点を取ったら何か罰があるとかはないから、気楽にね。」

 そんなことを言われても、「検査」という響きがなんだか気持ち悪かった。自分の嘘とか本当の気持ちとかを探られるのだろうか?




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この物語は、著者の半生を脚色したものです。


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