#39 遠い星で、また会おう。
※この作品は、フィクションです。
「おはよう。」
「…。」
「兄ちゃん、起きてる?」
「ん…。起きてるよ。」
「どうしたの?」
「ちょっと、具合、悪いみたい。」
「顔色悪いね。」
「疲れが溜まってたのかも。」
「兄ちゃん、俺、学校行くけど。」
「わかった。」
「朝飯は?」
「大丈夫。自分で適当にする。とりあえず休む。」
「そっか。わかった。じゃあね。いってきます。」
「いってらっしゃい。」
浩介が、玄関から出て、ガチャリと鍵が閉まる音がした。上手くいったみたいだ。
俺は、浩介が戻ってこない様子を確認して、起き上がった。洗面台に行き、いつも通り、学校に行く準備を始めた。顔を洗い、歯を磨き、寝ぐせを直した。鏡に映った自分の顔は、相変わらず痩せこけていたが、なんだか嬉しそうな表情をしていた。
学ランに着替えて、テレビをつけてみた。
「今日の1位は、おめでとうございます!やぎ座のあなた!気になるあの人と恋の予感!いつもより積極的に会話をすると、良いことが次々に起きます!」
はは。そりゃあ、よかった。
俺は、テレビを消して、台所に向かった。戸棚の奥の方に手を伸ばし、隠していた薬を取り出した。3袋。確かにある。
袋を破ると、力が入り過ぎたのか、薬が床に散らばった。そのまま、次の袋も力任せに破いて、床に散らばせた。その次も。
散らばった錠剤とカプセルとかき集めて拾った。うっすらとゴミが付着している。これくらいが丁度いい。
手のひらに乗っかっている、15錠くらいの薬を、口に運んだ。蛇口の水を手ですくって、ごくごくと飲み込んだ。体の中心に、水と錠剤が侵入している。それが、腹の少し上の方で留まっている。俺は、しばらく、誰もいない部屋を、ぼーっと眺めた。
この部屋で、母さんが暴れたことがあったな。その時、俺のウルトラマンのビデオを壊されたんだっけ。あれはショックだったな。大切にしていたのにさ。英語の教育ビデオは、ずっと置いてあるし。どういうつもりなんだよ。何回閉め出されたことか。母さんは、結局、俺らなんかより、自分のことしか考えてなかったんだな。浩介も、俺に「死ね」と言ったことがあったな。望み通り、そうしてやるよ。俺は、生きている価値のない存在なんだ。生きていても、これから先も、良いことなんてないんだろう。逃げ場も、救いの手も、何もない。ご苦労様、自分。
次第に、体が重たくなってきた。と思った次の瞬間に、強い眠気と激しい頭痛が襲った。俺は、部屋に戻り、ふとんに潜った。お腹の中が熱くなる感覚が増してきた。
俺は、これを待っていた。
脳味噌が爆発して頭蓋骨が割れそうなくらいの痛み。俺は、激痛に感謝していた。ああ、これで、ラクになれる。この世から消えてなくなることができる。今までついてきた嘘も、我慢してきた本音も、全部、闇に葬ることができる。
意識が朦朧としてきた。
俺ががここで冷たくなっているのを、だれが最初にみつけるのかな。
そういえば、いしょ、書いてないな。かくこと、ないしな。
じごくかな。じごくは、いまより、ましかな。
そういえば、あさめし、たべてないな。
かあさんも、こんなきもちだったのかな。
つぎは、もっと、いいところに、うまれたいな…
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この物語は、著者の半生を脚色したものです。
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