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児相業務に向いているのは「冷酷な人」かもしれない


こんにちは、ヨウです。

今回は、児童相談所の仕事について、お話しさせていただきます。




児相の仕事の仕事の8割が事務処理

児童相談所で、ケースワーカーになった私に与えられた役職名は「一般事務員」でした。

児相での仕事は、「記事作成」「文書整理」「会議資料作成」「通知作成・発送」「措置費等の計算」など、事務関係職務がほとんどです。

もちろん、子どもや親と面接をしたり、家庭訪問したり、子どもを一時保護したり、他機関へ子どもを移送したりすることもあります。しかし、こういった実働的な仕事をした後は、それに伴う行動記録の作成の仕事が必ず付きまといます。その他にも、移送をした際のタクシー代の清算、関係機関との連絡用の資料作成、作成した書類の決裁など、多くの事務処理が発生するため、どうしても事務仕事が多くなってしまうのです。


また、児童通告(虐待に関する)を受けた際は、その連絡の内容をまとめ、身辺調査を実施し、それを基に会議資料を作成し、会議に諮ります。この一連の流れでも、資料作成にかける時間の比重が多いため、やはり事務仕事が中心になってしまいます。


児相の職員として、「捌ける」ようになるためには、事務処理を的確にスピーディーに行う必要があるのです。



いちいち感情移入していると、仕事が回らない

こういった行政職ならではの性質を持っている児相職員ですから、事務仕事をに取り組まないことには、仕事が回りません。

しかし、児相職員が相手にする「お客さん」は、常に複雑な事情を抱えています。機能不全家族、貧困、ひとり親、過去の虐待経験、子どもの発達障害、親の発達障害、精神医療等々、一つのケースで複数の課題を抱えているパターンばかりです。子どもの境遇に涙が出そうになることもあります。

しかし、そこでいちいち感情移入して「子どものことを考えると、こういう風にしてあげたい」などと考え続けていると、次から次にやってくる通告に対応できなくなってしまいます。多くの事務処理が必要とされる現状がある以上、一つの案件に感情移入している暇はないのです。



児相業務では「客観的な視点」が大切

児相では、子どもの処遇決定をするときに、「援助方針会議」というものを実施します。これは、子どもの現状を客観的に分析し、家庭に支援を入れるべきか、児童養護施設等に措置するべきか等の決定をする会議です。

そこで重要になってくるのは、「関係機関からの情報」です。関係機関というのは、対象児童の家族が関わっている場所です。学校、保育園、幼稚園、学童保育、放課後等デイサービス、医療機関、役所(生活保護等)などがあります。

各関係機関から集めた情報と、親、子どもの話を聞いて、客観的に判断しなければなりません。

もちろん、子どもの話をきちんと聞くことも大切です。しかし、児相で取り扱う児童は、中高生のように意思がはっきりしている子もいれば、乳幼児のように、自分の意見を伝えることができない、または、適切な判断ができない年齢の子どももいるのです。

そういった事情から、関係機関からの情報が、大切な判断材料になるのです。



時に「冷酷ともいえる判断」をしなければならない

そうなると、子どもの意思に反した決断を迫られることもあります。


ひどい身体的虐待をしていて、「もう育てられない」と子どもの引き取りを拒否した親がいました。しかし、子どもは「家に帰りたい」「お母さんに謝って、今度からちゃんとする」と話していました。

この家庭は母子世帯で、且つ、貧困世帯でした。母親が仕事で朝早くから夜遅くまで外出しており、子どもが一人で家にいることも多く、軽いネグレクト状態もありました。生活がひっ迫していて、母親にも余裕がなく、子どもに対して身体的虐待をしてしまったのです。大きな痣を発見した小学校から通告を受けて、一時保護を実施しました。

児相から、家庭に支援を入れようと相談したものの、母親は「もう育てきれない」と引き取りを拒否しました。いろいろ調査すると、母親には男性の影があり、夜遅く帰っていた理由は、仕事だけではなかったようでした。そういう状況で、母親が変わる気がないのなら、子どもを自宅に帰すことは適切ではないでしょう。

しかし、子どもは小学生。親と一緒にいたい気持ちが強かったのです。


子どもの話だけを聞いて、自宅に帰す判断をすることもできなくはありませんが、もし、このままの生活を続けたら虐待が再発することは明白であり、子どもの命に危険が及ぶ可能性もあります。私は、子どもを説得して、「施設措置」の処遇を決定しました。子どもは、最後まで「帰りたい」と言って、泣いていました。

非常に心が痛む決断でしたが、そうでもしないと、子どもの身を守ることができません。児相には、こういった事情を持った家庭に関する相談が次々にやってきます。

だから、ある種「冷酷な人間」の方が、客観的に事実を判断して、さっさと事務処理をすることができて、児相の職員に向いているのではないか、と思えるのです。


終わりに ~昔の児相は違ったららしい~

再任用で児相の仕事のお手伝いをしていた方(児相勤務が長かったらしい)から、お話を聞いたことがあります。その内容が印象的でしたので、紹介します。

「昔は、一つの案件に、何人かで集まって、あーでもないこーでもないって、じっくり話し合うことができていたんだよ。でも、最近は通告件数がすごく増えて、話し合う余裕もない。ケースワーカーがしっかり判断しないといけない。苦しい状況だよね。」

私は、「忙しい児相」の姿しか知りません。だから、この方の話が本当かどうかはわかりません。しかし、一つの家庭に、何人かがチームでしっかりと話し合い、その上で様々な案を出し合って対応することができれば、きっと、より多くの子どもたちを救えるのではないか、と感じました。


児相の職員は、毎日、大変な業務に必死で立ち向かっています。皆さんに、そのことを理解していただければ、と思っています。



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