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#19 遠い星で、また会おう。

※この作品は、フィクションです。




 電話の奥から、慣れ親しんだ男性の声がする。

 「おう。洋介、元気にしているか?」

 「うん。父さんは元気?」

 「ぼちぼちだな。」

 俺は、定期的に父さんと電話をしている。俺が母さんから外に放り出されたことをきっかけに、「月1くらいで電話しよう。何かあったら助けれるようにしとくから。」と言ってくれた。父さんはメモ紙に電話番号を書いた。俺は、カバンに大切にしまっている。母さんと浩介がいないタイミングを見計らって父さんに電話をしている。この電話は、父さんと俺の秘密だ。

 父さんは、今、コンビニの店長をしている。ばあちゃんがやっていた会社は、父さんの兄貴?と揉めて辞めたと聞いた。街の方のコンビニで、遠い場所だから会いに行けないけど、高校くらいになったら遊びに行こうと思っている。忙しそうだが、割と生き生きしている。

 「この前、英語のテストで46点取ったって言ったじゃん。」

 「おう。」

 「期末で87点取ったよ。」

 「へー、すごいな!さすが父さんの息子だ。」

 なんでもない会話だが、父さんと話すと気持ちがすっきりする。部活の仲間とか、父さんとか、男の先生とか、男同士だと話しやすい。

 「そういえば、父さん、『うつ病』って、知ってる。」

 「ああ、あれな。気持ちが沈んでブルーな気持ちになるとかいう病気な。」

 「そうそう、それなんだけど…」

 「あれはな、ナマケモノがなる病気なんだよ。仕事とか嫌になって、逃げるために病気って嘘ついているだけだ。大体、仕事で悩んだって、嫌なことに向き合ってガッツで乗り越えないといけないのに、それを病気と言って、役所に申請して、お金をラクしてもらうためのものなんだよ。」

 「あ…。そうなんだ…。」

 「で、なんでうつ病とか気になってるんだ?」

 「あ、いや、学校でそういう話を聞いてさ。ほら、先生が病んで休んだとか、友達が話してたから。」

 「あーでも、学校の先生は大変そうだからな。でも、病気で逃げちゃいけないよな。」

 「うん。」

 「その点、洋介は勉強で上手くいかなくても、ちゃんと乗り越えたもんな。さすが俺の息子だよ。」

 「ありがとう。あ、そろそろ浩介が帰ってくるから、切るね。電話してくれてありがとう。」

 「浩介が元気そうで安心した。またいつでも電話して来いよ。」

 俺は静かに受話器を置いた。咄嗟についてしまった嘘を、後悔している。学校で先生が病んだという話は事実だったが、母さんのことは言えなかった。

 母さんは、ナマケモノなのか?一人でバタバタと仕事して、ご飯作って、俺らを吹奏楽クラブに入れてくれた。部費も、ラケットもシューズもユニフォームも、文句ひとつ言わずに買ってくれた。でも、母さんがいろいろお金を使ってくれるようになったのは、最近だ。ナマケモノになって、病院に行っているから、お金がもらえて、買ってくれるようになったのか?

 父さんの話のせいで、余計に混乱してしまった。でも、母さんがうつ病だという話を父さんにしなくて、よかった。しばらく、父さんに電話をするのは、やめよう。



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この物語は、著者の半生を脚色したものです。

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