#17 遠い星で、また会おう。
※この作品は、フィクションです。
もうすぐ11月だというのに、まだ暑い日が続いていた。学ランを羽織るかどうか悩ましい季節だ。「制服移行期間」というのは、厄介だ。俺としては、この痩せた体を隠せる学ランがいいのだけれど、暑がりだから半袖が良いな、とも思っていた。クラスの友達にも、ちらほら学ランの友達が増えてきた。今日はとりあえず半袖シャツで登校して、友達にいつから学ランを着てくるか、聞いてこよう。
浩介は、「秋のスポーツ大会の朝練があるから。」と、いつもより40分ほど早く登校した。懐かしいな、小学校、そんなイベントがあったな。
朝ごはんを食べている時、母さんがおもむろに話し始めた。
「兄ちゃん、実はさ、お母さん、病院に行ってて、先生から『入院した方がいい』って言われたの。」
「え、そうなの?」
「うん。それでね、来週から、1週間入院できるんだけど、いいかな?」
「お医者さんがそういうなら入院した方がいいと思うけど…。どこが悪いの?」
「お母さんね、『うつ病』っていう病気なの」
「それって、どんな病気?」
「やる気がなくなったり、気持ちが沈んだりする病気。たぶん、お父さんのせいなの。」
「そうなんだ…。」
「だから、しばらくお母さん、いないけど、大丈夫?」
「え…。ご飯は、どうしたらいい?米なら毎日炊いてるからいいとして、おかずとかどうしよう。」
「適当に冷凍食品とか買っておくから、それで何とかして。あと、お金も少し置いておくから、足りなくなったら何か買って。」
「わかった…。」
「あと、火の始末だけは気を付けてね。お風呂の沸かし方は分かる?」
「わかるよ。」
「そう。じゃあ、来週の月曜から1週間、お母さん入院するから。」
「お見舞いとかできる?病院はどこ?」
「駅の裏の坂をのぼったところ。」
「あ、新里中の上の方にある、レンガの建物?」
「そうそう。でも、精神科だから、お見舞いは来ないでいいよ。体がわるいわけじゃないし。家のことだけ、お願いしてもいい?」
「わかった。浩介には言ったの?」
「こうくんには、まだ言ってない。今日、帰ってきてからちゃんと話をしようか。」
こんな大事なことを、朝方、急にさらっと言われたのだから、一日、悶々としていた。そもそも、母さんは病院に通っていること自体、僕らに話していない。どうして、こういう大切なことを、母さんは話してくれなかったのだろう。
うつ病って何なんだろう?
この日、俺は、間違って学ランを羽織って登校していた。日照りが強く、暑い日だった。失敗した。天気予報は見ていたのに。
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この物語は、著者の半生を脚色したものです。
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