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#44 遠い星で、また会おう。

※この作品は、フィクションです。



 話がまとまり、明日、施設に引っ越すことになった。今日は母さんが外泊で家に泊まり、明日の午前中に松ヶ枝さんが迎えに来てくれるとのこと。俺ら二人と母さんは、タクシーに乗って家に帰った。タクシーの中では、誰もしゃべろうとはしなかった。

 その日の晩、母さんは、近所の中華料理屋で出前を取ってくれた。この中華料理屋のから揚げが大好きで、誕生日とか、運動会の後とか、お祝い事っぽい時に、母さんが頼んでくれていた。俺らが施設に行くことは一時的なもので、お祝いでも何でもないのだが、懐かしい味のから揚げが、胃に沁みた。

 俺らは、篠原さんに言われた通り、4泊できるくらいの荷物をバックに詰め込んだ。勉強道具も持っていかないといけないらしい。

 しばらく家を空けるので、部屋の掃除をしてみようという話になった。浩介と二人で、机の引き出しを開けて、小学校や中学校の卒業アルバムが出てきて、その話で盛り上がっていた。

 右の引き出しの、上から二番目のところを開いた。すると、懐かしい写真が出てきた。俺がまだ小さいころ、ウルトラマンのパジャマを着て、スペシウム光線のポーズを決めている写真だった。しわくちゃになっていたその写真を見つけて、俺はなんだか嬉しくなった。

 どうやら俺は、施設に行くことを、心の底で喜んでいるようだ。思い返せば、この家で辛いことがたくさんあった。学校も楽しくなくて、それ以外に居場所がないと思っていたけれど、また別の世界に行くことができる。死ぬほど苦しい痛みを受けなくても、逃げることができるんだ。今の環境が変わるんだったら何だっていい。きっと、このウルトラマンのパジャマをきて喜んでいた自分に戻ることができるかもしれない、と淡い期待があった。淡い期待がどんどん鮮明な希望になっていた。

 俺は、写真をカバンに放り込み、必要な衣類を詰め込んで、眠りについた。珍しく、母さんや浩介のことが気にならずに、すんなり眠れた。

 明日から、俺の人生が変わる。変わるんだ。
 


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この物語は、著者の半生を脚色したものです。


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