児童養護施設の子どもたちの「自立」を妨げる社会的要因

こんにちは、ヨウです。

今回は、子どもたちの「自立」について考えていきます。

私は、児童養護施設から自立しました。現在の生活を手に入れるまで、たくさんの困難を乗り越えてきました。かなり大変な作業でした。

なぜ、施設出身の子どもが「自立」することが困難なのかについて、簡単にまとめました。それでは、どうぞ。


「貧困」による学力不足

まず、児童養護施設にいる子は、入所以前に「家庭の貧困」に陥っている場合が多くあります。

大学進学にしろ、就職にしろ、まず学校を卒業しなければなりません。その学校で起こっている現象として、「家庭の経済格差」が子どもの学力や将来の収入に影響しているのです。

教育社会学分野において、親の所得と子どもの学力に比例関係が生まれているということが実証されています。生活保護世帯や児童福祉施設等の子どもたちは、一般家庭に比べて極端に学力不足が指摘されているのです。


「自立」に関して言えば、学力がすべてではありません。しかし、学力不足によって進学率が低下し、就きたい仕事に就くことができない子どもは、少なくありません。



頼れない親

「親に頼れない」ということは、施設出身者と一般家庭との大きな違いです。親に頼れないということは、安心して帰る場所や、身を寄せる場所がないということです。

安心して帰ることができないことから生まれる孤独感や精神面の不安定さは、言うまでもありません。また、頼ることができないがゆえに、頼るすべを知り得ないまま成長してしまうこともあるのです。


日本は、「家族依存社会」です。子どもの生活や育ちに関して、「家族責任」「親責任」を当然とする社会です。それによって、信頼できる人がいない子どもたちにとっては、この日本社会の仕組みが、確実に子どもたちの足かせになってしまいます。



アフターケアの困難さ

頼るべき場所がない子どもにとって、児童福祉がセーフティーネットになります。児童養護施設出身の子どもは、育った施設が「帰る場所」になるのかもしれません。

しかし、児童養護施設の現状の指導体制を考えると、退所した子どもたちが「気軽に施設に頼ることができるのか」と言われると、NOと言わざるを得ません。児童養護施設は、常に需要が高く、空きが少ない現状です。職員はリアルタイムで入所している児童に手がかかり、退所した児童に、仕事の範疇を超えて恒常的に支援することは難しいのです。


また、「アフターケア」と一言にいっても、簡単ではありません。子どもたちが抱える事情は、100人いれば100通りあります。個人に合ったアフターケアの形もそれぞれちがうのです。

非常にシビアな状況で働いている児童養護施設の職員に、その子らのアフターケアまで、手が回らないのが現状でしょう。


ただ、これは施設側が悪いわけではありません。児童養護施設は常に需要が高く、満床状態が続いている施設が多く存在します。そして、退所した子どもたちも、その現状を理解しています。頼りたいけれど、頼るのは申し訳ないという感情を持っている子も多いのです。


終わりに ~社会が変わらないと、改善されない現状~

これらの問題は、社会が抱える問題です。だから、社会が変わらないと、この状況は改善されないのです。


日本では、GDPに対する学校教育費は4.8%です。これは、社会情勢等で不安が少ない先進国の中では、かなり低水準になっています。本来、子どもの教育を保証するべき国が、教育にあまりお金をかけていないのです。だから、世帯収入によって子どもの格差が生まれているのです。

親を頼れないことによる問題も多く存在します。18歳で退所する子どもの親権の効力は、20歳まで続きます。たった2年間で、子どもに注いできた教育や福祉が社会に搾取されることも少なくありません。

そして、アフターケアが不十分であることも、大きな問題です。NPO法人など、多くの支援団体が存在します。個人が抱える事情がそれぞれ異なる以上、適切な支援にたどり着くかは、運の要素も大きいものです。私は、そういう支援団体があること自体、知らない状態で施設を退所しました。育った環境をよく知っている児童相談所や福祉施設が支援先を斡旋する必要があるのではないでしょうか。


ここで挙げたこと以外にも、多くの要因が重なり合い、負の連鎖が生まれてしまっているのです。


この負の連鎖を食い止めるためには、国が、社会が、文化が変わる必要があります。ここで挙げた例はほんの一部です。この記事をきっかけに、社会的養護について多くの人が関心を持ってくれることを願っています。


参考文献:阿部彩『子どもの貧困Ⅱ-解決策を考える』岩波新書、2014年



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