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#37 遠い星で、また会おう。

※この作品は、フィクションです。




 夏休みは始まったものの、K高では、夏期講習と言う午前授業が実施されていた。その後、他の生徒が部活に打ち込んでいる頃、俺は一人自宅に帰っていた。ギラギラと夏の日差しが眩しい中、とぼとぼと一人で歩く帰り道は、寂しさと虚しさがのしかかって、肩が凝った。

 夏休みは、正直、することがない。家のことは十分にする時間がある。学校の課題もしなければならない。それでも、今までに比べると、遥かに暇だった。時間を持て余していた俺は、家で一人、世間を批判するニュースや、東京のグルメについて放送しているテレビを見続けた。よくわからないドラマを見たりもしたけれど、大体、誰かが死んで、それを解決するまでで完結する決まりきったパターンで、つまらない。母さんが家に残していたタバコを吸ってみたけれど、不味くて煙たいだけで、楽しくもなんともない。ビールも飲んでみたけれど、苦いだけで、一口舐めて、すぐに流しに捨ててしまった。

 母さんは、夏休み中に退院して、夏休みが終わろうとした時に、また手首を切って入院した。母さんが入院する時、俺は、なぜか母さんの薬の袋から、3日分の薬を抜き取って、持って帰った。学ランのポケットにある小包装を手で確認しながら、麻薬の密売の手伝いをしている気分だった。家に帰って、薬をキッチンの戸棚に隠した。普段、浩介が絶対に触らないところ。誰の目にも触れないように気を配った。自分でも、何でこんなことをしているのか、分からなかった。

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この物語は、著者の半生を脚色したものです。

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