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#20 遠い星で、また会おう。

※この作品は、フィクションです。




 母さんは、予定通り入院した。入院中、母さんが大量に冷凍食品を買い込んでいてくれたおかげで、飢えることはなかった。でも、それじゃいけない気がして、肉や野菜をお小遣いで買ってみて、母さんがしているみたいに料理をしてみた。醤油を入れ過ぎて塩辛くなったり、肉が焦げてカチカチになったりした。浩介から酷評をくらいまくった。母さんは料理が上手なんだと痛感した。それから、部屋のほこりや髪の毛が気になるようになった。母さんは、毎日掃除機をかけて綺麗に掃除してくれたんだ。
 母さんの有難みは、いなくなって初めて気づくものだ。初日の夜、食べ終わった食器を洗いながら、少しだけ涙が出た。母さんは、これをしながら仕事もしていたのか。大変だったな。母さんは、たぶん、ナマケモノなんかじゃない。

 母さんが、安心して戻ってこれるようにしよう。掃除も、洗濯も、料理も、しっかりやらなければ。母さんを救えるのは、俺しかいない。


 浩介は「俺も手伝えることがあったら、言ってよ。もうそんなガキじゃないんだからさ。」と言ってくれる。そうは言うものの、弟に何をさせようという気にはならない。俺は兄ちゃんなんだから、しっかりしないといけないんだ。浩介を支えるのは、俺しかない。


 それから、母さんは、3か月に一回くらい、病院に入院するようになった。そのたび、俺は母さんの代わりに家事をした。日常的に母さんの家事を手伝うようにもした。

 母さんのおかげで、この生活ができていることを理解したから、俺は、家族を支える決心をした。母さんがきちんと病院に行って、きちんと薬を飲んで、きちんと治療できれば、前までの生活に戻れる。母さんには時間が必要だ。その時間を、俺が作ればいい。それだけだ。


 そうこうしているうちに、受験生になっていた。

 母さんは、「大学に行ける高校にしなさい。」と言い続けた。母さんは、ばあちゃんから「お金がないから大学には行かせられない。」と言われたことがとても嫌だったから、子どもには大学に行ってほしいと思っていた。
 個人的には、工業か商業に進学して、高校を卒業して働きたいと思っていたが、母さんも、担任も、大学進学を勧めた。「勉強が出来るのに、もったいない。」だと。

 俺は、K高を受験することに決めた。県内では割と名の通る学校だし、県内でも、ソフトテニスが強いことでも有名だった。担任には「もう一つ上のレベルのN高を狙ってみては?」と言われたが、俺は私立の高校に行くお金が家にないことを知っていたから、「確実に受かりたいので。」と断った。
合格通知を持っていくと、母さんは両手をあげて喜んでいた。

 母さんの体調は、相変わらず良くならなかった。母さんは、いつ、元気になるのだろう?

 きっと時間が解決してくれる。そう信じていた。


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この物語は、著者の半生を脚色したものです。

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