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#30 遠い星で、また会おう。

※この作品は、フィクションです。




第五章 激痛

 それから、前の部活のメンバーに「山元、お前、家事とか料理とかやってるの?偉いよなあ。また、いつでも部活に戻って来いよ。」と優しい言葉をかけられた。「ありがとう。」と言いつつも、戻る気なんて、一ミリもなかった。

 それからというものの、部活に行かずに真っすぐ家に帰るようになった。母さんが緊急で入院したことを、親戚の伯母さんに言ったみたいで、「ごはん、ここに作って置いておくから!」と大盛も揚げ物やらオムライスやらを作って置いてくれたおかげで、そんなにご飯を作らなくてもよくなった。月に2回くらいだけど。

 浩介が、「俺も部活辞めよっか?」と言ってきたけど、全力で止めた。「部活は、俺が勝手に辞めただけ。ウザい先輩がいただけだから。」と言っておいた。その代わり、食器洗いをお願いした。少しくらいなら、任せておいた方が、浩介も何も言ってこないから楽だった。

 1か月後、母さんが退院してきた。家に帰って、母さんは、余りタバコを吸わなくなっていた。その代わり、両腕に傷が増え続けていた。手首だけにあった傷が、いつの間にか肘の部分にまで到達している。洗濯板みたいにボコボコした両腕を「夏は半袖が着られないから、大変。」と言っていた。切らなきゃいいのに。

 そして、夜中に手首を切って大泣きすることも増えた。大した怪我じゃないから、俺がなだめて終わっていたけれど、余りに泣き叫んで「死ぬ!」と言い出したら、救急車を呼ぶようにしていた。そのたびに寝不足にさせられるし、ただただ面倒くさかった。母さんが何をしたいのか分からなかったし、それ以上に、「ああ、母さんの病気、もう治らないんだな。」と割り切っている自分もいた。

 クラスで部活をしていないのは、俺だけだった。だから、勉強くらいはちゃんとやろうと決めていた。授業もきちんと受け、宿題も全部自力で解くようにした。それなのに、成績は上がらず、忙しいはずのみんなの方が、高得点を取っているのが気に入らなかった。こんなに努力している俺は、報われないのか、と。

 毎日の弁当を作る気力がなくなっていて、昼休みは、カロリーメイトを1本食べた後、机に突っ伏して寝るのが定番になっていた。本当は、寝ていなかったのだけれど。友達とコミュニケーションをとること自体、億劫になっていた。自分がついた嘘がばれる日が来るかもしれない。しゃべると、ボロが出るかもしれない。必要最低限の連絡的な会話以外しないようにした。昼休みは、周りでクラスの友達が話している内容に耳を傾け、その内容を、家に帰って、あたかも自分もその場にいたかのように話していた。

 溜まりにたまったストレスのはけ口はどこにもなかった。ただ、孤独な学校生活と、家で明るい学校生活の話を繰り返す。たまに、母さんが手首切って夜勤をする。寝不足のまま勉強する。

 しょうがない。しょうがないんだ。


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この物語は、著者の半生を脚色したものです。

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