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#34 遠い星で、また会おう。

※この作品は、フィクションです。



 目を覚ますと、頭痛は収まっていた。それなのに、ひどく気怠かった。時計は2時を指している。外は明るい。昼か。

 お腹は空いていたけれど、何もやる気が起きず、眠気が勝っていた。台所に行き、朝食用に買っていた薄皮クリームパンを取り出して、口に運ぶ。正直、美味くない。台所の小窓の向こうで、鳥が鳴く声が微かに聞こえる。今頃、5限目の真っ最中なんだろうな。

 休んでいて、何もしていないのが不安だった。部屋からカバンを持ってきて、勉強道具を机の上に広げる。とりあえず、数学。教科書の文字が、何かの記号にしか見えない。いや、記号なんだけれど、それを解読する余力がない。時間だけが過ぎていく。

 薬を飲んだことを、激しく後悔した。こんなことなら、飲まなきゃよかった。自分の生活すべてが乱れる。

 母さんは、自殺しようとするとき、この袋を10袋くらい開けていた。前回もそうだった。そんなに飲んだら、本当に死ねると思う。というか、母さん、よく生きてるな。俺は1袋で死にそうだよ。

 ぼーっとしながら、外を眺めた。すりガラスから、隣のアパートの黄ばんだ壁が、太陽光を反射させて、こちらに降り注いでいる。薄汚い柔らかな光に、心が押しつぶされそうになっていた。

 ふと立ち上がって、洗面台の前に立った。自分の顔を見てみる。目の下のクマが目立ち、髪は寝癖が残ったまま。痩せこけた細長い顔が映し出されている。

 「おい、お前は、何がしたいんだ。お前はどうして、ここにいるんだ。学校に行くんじゃないのか。家族を支えるんじゃないのか。なんで頑張らないんだ。なんで逃げてるんだ。馬鹿じゃないのか。もっと頑張れよ!」

 鏡の中に映し出された自分が涙を流している。そして、放った言葉が反射して、心臓に突き刺さる。痛い、苦しい。締め付けられるような悲しみが溢れて、涙が止まらなかった。ふがいない自分が情けなかった。母さんにぶしつけな態度を取った自分を恥じた。浩介に八つ当たりして手をあげた自分が醜かった。こんな卑しい存在が、この世に存在していいものなのか。誰か答えを教えてくれ。俺は何のために生まれてきたんだ。

 もう、気力がなくなって来た。寝よう。部屋に戻って、布団にくるまった。泣きすぎて疲れていた。


 浩介は、何も変わらない様子で帰って来た。その後、俺に「これくらいなら」と目玉焼きを作って持ってきてくれた。「ありがとう。でも、具合が悪いから、いいや。明日の朝、食べるよ。」と言った。なぜか、その後、ぐっすり眠れた。

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この物語は、著者の半生を脚色したものです。

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