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#1 「学びと自治」を聞く〜西山卓郎さん〜

個人の成長や成功の手段とされるようになってしまった “ 学び ”。しかし、やや古めかしく堅苦しくも感じられる “ 自治 ” という言葉を通してまなざすと、“ 学び ” には、社会を支える「公共性」と、自ら意味と価値をつくる「個人の自律性」という、2つの新たな価値・役割があることが見えてきます。
Learn by Creation NAGANOの運営を担う実行委員のメンバーは、共に長野県を拠点としながらも、図書館や公民館運営に携わってきた方や、インターナショナルスクールの経営や書籍流通の民間事業者など、各々が異なる領域で活動しています。それぞれの語りから、日常に根ざした「学びと自治」を聞き取り、感じ取るインタヴューシリーズをはじめます。みなさんの「自分にとっての学びと自治」に思いを巡らせるきっかけになりますように。

第1回目にインタビューした人:

西山卓郎さん
Learn by Creation NAGANO実行委員。普段はバリューブックスにて寄付事業「チャリボン」を担当。Learn by Creation NAGANOの2年目に、自身の問題意識から「違いを味あう」というテーマを立案し、阿部長野県知事やインクルーシブ教育の研究者の野口晃菜さんを招いて『違いの味わい方 “みんな違って、みんないい”の半歩先へ』のイベントを企画。現在は、Learn by Creation NAGANOの実行委員としてブックギフトをベースとした、本と子どもたちや先生たちとの新たな接点を探るプロジェクトを企画中。活動拠点は上田市。
https://nagano.learnx.jp/member/290/


いくつもの活動領域を持つ西山さん

ーーはじめに、Learn by Creation NAGANO以外で西山さんがどんなことをしているのか、またどういった経緯で関わることになったのかを、教えていただけますか?

今、複数の活動に関わっています。主軸は古本の買い取りと販売をするバリューブックスという会社で、「チャリボン」というサービスの責任者を務めています。バリューブックスに入社したのは、大学卒業後にミュージシャンと会社勤めを経験した後、創設者の中村大樹との縁からでした。

チャリボンでは、本の買い取り金をそのまま売り手の指定したバリューブックスが提携するNPO・NGOや教育機関などに寄付しています。今、提携している団体は200以上。読まなくなった本を何かに役立てたい人、支援を必要としている団体、古本を仕入れたいバリューブックス、三者三様に得をするサービスです。

Charibon Webサイト

このチャリボンのつながりから「chance for Children」という団体のことを知り、活動に共感。2023年の7月から関わっています。そこでは、「多様な学びを すべての子どもに」をミッションに、塾や習い事で利用できる「スタディークーポン」を提供しています。長野市の受託で、市内の小学1年生から中学3年生までの全ての子どもたち約28,000人に対する取り組みが2023年10月から始まっています。

バリューブックスからのつながりもあります。会社と県立長野図書館が連携協定を結んだ関係で、平賀研也さん(当時・県立長野図書館館長)からのお声がけで、県立長野図書館協議会の委員に応募して、入らせてもらいました。図書館の取り組みや活動のアイデアについて、半年に1回ほど10人のメンバーで議論しています。

県立長野図書館のオープンスペース、信州・学び創造ラボで行われた図書館協議会の様子
県立長野図書館のオープンスペース、信州・学び創造ラボで行われた図書館協議会後のカフェタイムの様子

Learn by Creation NAGANOの実行委員になったのは、当時県立長野図書館職員だった方にお声かけいただいたことがきっかけです。僕が何かやってくれるんじゃないかという期待と、本を扱う企業にいるから関わってほしいという意図があったと思うんですが……。イベントやプロジェクトの企画をこれまでにやりました。

ーーバリューブックスの中村大樹さんとの縁から、活動場所がだんだんと広がったんですね。会社とは関係なく始まった縁もありますか?

地域の縁で「場作りネット」副理事の元島生さんに誘われて、団体の理事をやっています。場作りネットでは電話やSNS、宿泊事業などを介して生活困窮などさまざまな困りごとの相談を受け付けていて、実績としては年間約10,000件ほど対応しています。そのほか、食事会や盆踊りといった場所と時間を共有する場を地域の仲間たちと用意し、そこに集まった人同士のつながりをつくる「のきした」、困りごとを抱えたときに誰でも一泊500円で誰でも泊まれる「ヤドカリハウス」という取り組みを実施しています。

ーー西山さんの関わりに支援的な側面が多いのは、個人の関心事に近いからですか?

振り返ると共通項が見えますが、たまたま出会い、人の縁があって関わるようになりました。僕自身が「何か世の中ってつまんない」「生きづらい」と思いながら生きてきたなかで同じように感じていた仲間とたまたま知り合い、「一緒に良くしていこうよ」と誘いに乗って、こうなりました。

大切に思う2つの「出会い」の発見

ーー多くのことを経験されたなかで得たものや変わったものはありましたか?

チャリボンは入社してから自分で担当したいと手を挙げたのですが、さまざまな社会課題に取り組む団体の方と話す機会ができると考えたからです。そのことで本当に自分にとっての「世界」が広がりました。

団体の方たちと話すことでいろいろな課題やその背景、あるいはそれに取り組む人自身の想いなどを聞けることが深い学びになります。知らないものの存在を知ることができるのは「自分が意図してない角度からの差し込み」しかないので、自分の視野の幅がすごい広がりました。

ーー多くの社会課題が、当事者でなければそれを知る機会すらない場合がほとんどですよね。チャリボンの他に、印象的だった体験は何かありますか?

のきしたのWebサイト
のきした Webサイト

場作りネットの「のきした」で、それまでは誰とも接点を持たずただ「まちにいる人」だった方がだんだん他の参加者と関わりを持つようになり、人格をもった個人として認識されて名前で呼ばれ、やがて、特技を依頼されるような関係にまでなったことがありました。これを「“出会い直し”なんじゃないか」と仲間が言っていました。

場づくりネットにはもともと福祉領域にいた人が多くて、「支援者と要支援者の縦の関係になってしまいがちだけど、それでは何も変わらない」と話しています。そんななかで、支援するもされるも関係なく、ただ食べ物など何かを持ってこれる人が持ってこれる分だけを持ち寄り、何か一緒に準備し食べて片付けるなどで体験を共有していると、その関係性で出会い直せる。

自分自身が多くの人と出会い関わってきたなかで「出会い直し」という表現が生まれたこと自体が強烈だったし、実は「縦の関係」では、本質的に出会えていなかったのはないかと、ハッとしました。

ーー「のきした」が「ただまちにいる知らない人」「「誰かの親」「誰かの子ども」「小・中学生」「学生」というラベルを剥がし、関係性を新しくつくるきっかけになっているんですね

そうですね。参加者やボランティアの人が自発的に自分の役割や関わり方を見つけて自由に関わっている印象です。関わる人も関わり方も多様になり、活動も広がってきていると感じます。

長野県上田市にある犀の角で開催された「のきした」の様子
長野県上田市にある犀の角で開催された「のきした」の様子

西山さんにとっての自治

ーー一今、改めて自治について考えると、西山さんにとって自治とはどのようなものですか?

そうですね……『コンヴィヴィアリティのための道具』(イヴァン・イリイチ著)に《自立共生とは、人間的な相互依存のうちに実現された個的自由であり、またそのようなものとして固有の倫理的価値をなすものであると考える。》という言葉が出てくるんですが、僕にとってはこれが自治なのではと、ここ数年思っています。

社会ではすぐに立場の上下関係の話になるし、少しでもコミュニティから外れると分断されるうえ、正解とされた人以外は全員不正解になってしまいがちだと感じています。そうならないように「相互依存のうちに実現された個的自由」をちゃんと咀嚼しながら活動することは、「自治」と呼べる気がします。

施しをするでもなく、非営利活動でもない。かといって共依存でもなくて、もう少しカラっとしてる。近所の人に余った野菜をあげる、銭湯で体を動かしづらそうにしている人の背中を流す、というような相互依存のネットワークを身近なところからどれだけ楽しく作っていけるのか。そんなことを、みんなと一緒にやりたいと考えています。

ーー読まなくなった本を何かに役立てたい人、支援を必要としている団体、古本を仕入れたいバリューブックスというチャリボンでの三者の関係性にも通じるし、「のきした」に関わる人たちの関係性にも似ているような気がします。

バンドをやることにも似ているかもしれません。ドラムがビートを刻むからベースが自由に弾ける。上下もない相互依存的な関係性があってギターは自由にソロを弾くし、ラッパーは言葉とリズムで表現する。

バンドのメンバーと西山さん(左から2番目)
バンドのメンバーと西山さん(左から2番目)

そんなジャムセッションに似た空気感を、音楽以外の方法・場所でつくれるかが僕のテーマでしたが、今考えると、それは自治っぽいですね。
この人もまた素敵なプレーですね、素敵なソロですね、みんなのプレーも聞かせて。その中で僕だったらどう一緒にプレーできるかな。こう考えるのが楽しいです。

ーー他者がいてこそ自分の自由が発揮される、生まれるという感覚はとても興味深いですね。

学びと自治

ーー自治と同じくLearn by Creation NAGANOのキーワードになっている「学び」については、実行委員の西山さんとしてどうお考えですか? あるいは、自治のために必要な学びはどのようなものだと考えますか?

それは「自分はネットワークの構成要素である」「ネットワーク内では個人のアウトプットがお互いに影響しあっている」この2つをどう実感できるか、だと思います。

例えば、対話で自己変革が起こると同時に他者も変化していることを、実感として得られるかどうか。つまり、「変化の実感」そのものが「学び」なんだと思います。

ーーそのために必要なことってなんだと思いますか?

今、「自治」のネットワークは同質性が高いもの同士でつながっていて、第一言語が一緒じゃなかったり、発話と手話を例としたアウトプットの形が違ったりするとネットワークの構成員として考慮されなかったり、見落とされたりしがちです。でも実はそうした人々もネットワークの一員である、ということを明らかにしていく必要があると思います。

食卓に今置かれている食べ物は、勝手に目の前に生えたのではなくて、育てた環境や人・運んだ人・調理した人がいる。そういうふうにネットワーク全体が見えるようになればなるほど、身の回りの物事全てが超おもしろくてすごいものに感じてしょうがなくなるはずです。

ーーそうしたプロセスを経て成り立つ自治ってどういう意味があるんでしょうか?

自治が自分ごとになるのではないでしょうか。言われたからやる・言われないからやらないではなく、全部が自分に関連しているし、自分が関連していると思えるようになる。それが特にここ最近、大事な気がします。

ーーーネットワークから排除されがちだった人も含んだ自治、他者によって世界の見え方が変わっていく、という視点は、今まで接点を持つことのなかった人でもSNSで見えるようになった今だからこそ、ものすごく大切だと思います。縁によって関わる場所が増えてきた西山さんらしい回答を、ありがとうございました。

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