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[後編]「コロナ後の社会と教育の可能性 苫野一徳 (教育哲学者)X 尾原 和啓(フューチャリスト)」 イベントレポート

Learn by Creationは、ポストコロナの世界を見据えつつ、これからの学びについて考えようと、5月5日に第二回オンライン対談を企画しました。

第二回は、「コロナ後の社会と教育の可能性」をテーマとした哲学者・教育学者/熊本大学教育学部 准教授の苫野一徳先生、フューチャリスト 尾原和啓氏による対談です。後編では、イベント後半のQ&Aセッションの様子をお伝えいたします。前半はこちらからご覧ください。

Q&Aセッションの様子

Q&Aセッションでは参加者の方から関心の高かった自発的な学びをサポートする視点や今回Q&Aセッションのモデレーターを務めた高校三年生の福永さんから高校生ならではの疑問などが登壇者のお二人に投げかけられました。

質問)生徒が(自発的に)学びたいから学ぶ、面白いから学ぶということを今の状況でシステムが変わらなくても教員ができることは何だと思われますか?(教育関係者の方からの質問)

苫野先生からは、探究をドライブするための条件を長期的、中期的、短期的にアドバイスいただきました。

長期:徹底的に遊ばせてあげる
中期:いろんなテーマに浸る、引っかかったものは何でも試してみる
短期:本物との出会いを揃える

また、苫野先生が特に強調されていたのが、「強制的に学びの機会を与えられることで学びに向かう生徒もいるのでは?」という見方に対して、それは今のシステム下では強制される事で強制的に学んでいる状況になってしまっており、
「本来であれば”自由になるための教育”を実現するには、まず自由が保障され、その中で子どもが自分自身で考えて決定するという経験が必要になってくる。大事なことは選択肢を広げること。そして子ども達が学びのオーナーシップを持つ経験を沢山持つと、言われなければやらないという事がなくなっていく。」
という点でした。

尾原氏からは、先生が短期的にできることを2つご紹介いただきました。

・できるだけ「子どもの喉を乾かせてあげる」
・その時に水を探すことを先生がするのではなく、子ども達が自然と
プロジェクトとして進められるようになる環境を用意する

子ども達の(好奇心の)喉が乾けば、興味や好奇心の対象をテクノロジーを使っていくらでも探すことができる環境が今はある。また、クラスに数人はいる「喉が渇いている」「想いのある」生徒を中心にプロジェクトを加速させていくと言ったアプローチの仕方もある。そして先生自身が楽しむことがまず大切。

というお話があり、子ども達の興味関心に対する渇望感、好奇心をうまくドライブできる環境を整えることや、漠然としていても何かテーマを持っている子どもを中心に積極的に一緒にプロジェクトを進めていくやり方などを尾原さんが以前在籍されていたリクルートの事例なども交えながらご紹介されていました。

質問)自由な時間について。探究の時間ができたが、実際に探究の時間が与えられても自由に考えるとなると中々難しい。何か現役高校生、中学生へのメッセージをお願いします(モデレーター福原さん)

苫野先生からは、

「自分が何をしたら良いかわからない」という相談をよく学生さんから受けるそうで、その際には下記のようにアドバイスされているとおっしゃっていました。

・本を読む、音楽を聴く、映画を観るなどまずは何でもいいからやってみる
・関心がある本を沢山読んで面白いテーマを見つけてさらにその分野の本を20冊位読んでみる。そうするとその道のちょっとした専門家になれる
・投網漁法から一本釣り漁法になり、ワクワク感も増してくる
好奇心のアンテナに引っかかるものを大事にする

尾原さんからは、

ご家庭のお話も交えながら、少し厳しめのアドバイスも。

「探求とは自分から探し求めているもので、そもそも人から与えられるものではない。教育はカーンアカデミーをはじめ世界中に何でもいくらでも学べるコンテンツがすでに沢山あり、やりたい!と思えば何でもできる時代になっている」

というご意見があり、実際にご家庭でもお子さんに対して将来何になりたいかという対話を通じて、より本人が自発的に自ら考え行動して人生を主体的に考えられるようにされていらっしゃるそうです。また、やる気があれば本人次第で何でもできるだというお話がありました。

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最後に

オンライン対談の最後に、登壇された苫野先生、尾原さん、モデレーターの竹村よりご参加していただいた皆さまへのメッセージが贈られました。

尾原さん:

「コロナは元々あった変化を10年縮められる機会になっている。 これからnew normal の時が来て本来であれば引きこもっている中で好きなものを見つけるチャンス。ただ、コロナが終わった時にold normalの重力に負けて状況がまた戻ってしまうことが怖いと思っている。だからこそ、成層圏離脱できるだけのロケット燃料をこの時期にどう作っていけるか?を大切にしてほしい」

苫野先生:

「公教育の構造転換は、100年以上の理論と実践の蓄積があるが、実現には時間がかかってきた。これからはどういう条件を整えれば実現できるのか?文科省は予測困難な時代の教育と長年言い続けている。構造転換に向けて、ビジョンは見えている、どういう条件整えればどう実装できるのかを考えていきたい」

モデレーター 竹村詠美:

「全国から参加して一緒に考えてアクションが起こせる土壌ができています。一人一人の行動が変わっていく、増えていくことを期待しています」

今回のオンライン対談後には数名のグループに分かれての振り返りの会も実施されました。教育関係者の方のご参加も多く、学校という枠組み、公教育という枠組みの中でもどうしたら新しい取り組みができるのかについて現場での葛藤の声も聞かれました。保護者の方からは学校が休校となり家庭教育に対する不安の声もありました。その後、振り返り会の対話を通じて、今回のオンライン対談を機に、前向きに今回のコロナを捉えられている方が多く、一人一人の想いや考えそして行動が変わっていくことで、コロナ後の社会、学校、学びが試行錯誤を繰り返しながらも、良い形に進んでいく大きなきっかけになるのではないでしょうか。

編集後記

最後に、今回のイベントレポートを担当させていただきました秋吉、島田より実際にカンファレンスに参加した感想を簡単にご紹介させていただきます。

「今回のイベントには、教員の方も多く参加してくださいました。その中の一人である私にとって、苫野先生が公教育の原点についてお話しされ、その実装に向けて尾原氏が豊富な知見を共有されるというやり取りがとても刺激的で、小学校現場における「ニューノーマル」とは何なのかを深く考える契機となりました。私が勤務している学校では、非同期型の遠隔学習を続けていますが、明らかに今までのやり方を変えていく必要に迫られています。私たちの役割は、学びのガイド役、サポート役へと自ずとシフトしています。学校再開後も教室の風景が元に戻ることはないとされる今、限られた教室での対面の時間をどのように活用していくべきか、「ニューノーマル」の在り方を模索しています。だからこそ、苫野先生がいつもお話しされている原理に立ち返りながら、教職員で対話を繰り返していくことが重要なのだと改めて実感しました。また、尾原氏のように新しい視点や切り口を示してくださる方の知見との出会いがあるからこそ、今までにない取り組みに挑戦することができます。今後もLearn X Creation がそのような機会を発信することができるように、私にできることを続けていきたいと考えております。」(秋吉梨恵子)

「これから当面は with コロナの時期が続くと予想されています。今のようなソーシャルディスタンスを取る、在宅勤務が推奨、学校や幼稚園が休校、保育園は登園自粛といった今の私たちの生活や環境を2020年元旦に想像できたでしょうか?不確実性が増していく時代の中でも、日々子ども達は成長し、環境から学んでいきます。「どうしたら教育の個別化、協同化そして子ども主体の教育を実現できるのか?」「また、テクノロジーと共に教育をより良くしていけるのか?」という方向に考えや視点を改めて向けて、行動していくタイミングが来ていることをお二人の話を聞いて改めて思いました。
Learn X Creation の活動が多くの教育関係者の方や保護者の方にとって継続的なムーブメントを起こせる場になればと願っております。」(島田敦子)

※ より詳しい内容につきましては、本対談の動画をこちらからご覧いただけます。


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