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【デスメタル乳首破壊光線】

 俺はデスメタルの力で乳首から破壊光線を出せる。これを聞いて笑った奴等は全員死んだ。乳首破壊光線で跡形遺さず消し飛んだ。今笑ったお前も殺す。

バーニン8月号 「天ノ川エーテルに聞く!」より


 バンドの練習に行くと、メンバーの二人はすでに肩慣らしを始めていた。俺は二人に声をかけてギターケースを下ろし、防音室の隣の部屋に入る。
 狭苦しい事務室でPCの電源ボタンを押した。十数年モノのPCは殺してくれと悲鳴を上げながら起動。この断末魔にインスパイアされて書いた歌詞は1つや2つではない。3分ほど聴き入ってから目を開けると、モニタには青空と農場の緑。
 メーラーを立ち上げ、出演や対バンの依頼がないかザッとチェック―――――一通のメールに目が止まる。

 差出人の名は『ブルータル・ジャック』。2週間ほど前に対バンしたデスメタルバンドのボーカル。デスメタルの力で竜巻を発生させ、ライブハウスの天井を30マイル先まで吹き飛ばした迷惑極まりない奴だった。だが死んだ。俺が乳首破壊光線で焼死体にした。間違いない。乳首にまだ手応えが残っている。なぜ奴からメールが?
 マウスを動かす。メール本文を開くと一語、「vengeance」。
 報復。
 穏やかでないが、謎は解けた。誰かがジャックのメールアカウントを使ったのだろう。

 俺は嬉しくなった。
 というのも、奴が破壊したライブハウスの修繕費は俺たちに請求されている。対バン相手を皆殺しにする痛恨のミス。ひとり生かして帰すつもりがしくじった。結果、全額こちら持ち。
 だが縁故者が復讐にくるならば、捕らえて金を出させれば良い。
 ほくそ笑んでいるとPCが大きな唸声を上げ、発火。プラスチックのケースが溶解。オンボロが天に召される時が来たか。俺は胸の前で十字を切った。

 このとき俺はドジを踏んでいた。この発火はPCの寿命ではなく、デスメタルによる攻撃であることに気づかなかった。
 【前編に続く】