見出し画像

子どもの貧血にご用心!

こんにちは。ラブテリ研究チームの横尾です。前回の記事では、成人女性の貧血リスクについてお伝えしました。

今回は、子どもの貧血について、お伝えしようと思います。なお、現在ラブテリでは、子どもの貧血に関する研究資金のご協力を、クラウドファンディングにて募っております。

リターンとして、実際にお子さまの血中ヘモグロビンを測れるチケットや、ラブテリカウンセラーによる栄養カウンセリング(お子さまがいなくてももちろん可)が含まれるパックもご用意しております。ぜひみなさま上記ページをご覧いただき、研究へのご支援を賜れれば、うれしく思います。

子どもの貧血を知る機会はない

私自身も5歳と2歳、2人の子供を育てておりますが、大人と違って健康診断での採血検査などがない子供たち。果たして子どもたちが一見健康そうに見えても、子どもに栄養素(鉄分)が足りており、貧血になっていないかどうかを見極めるのは、親であっても難しいと思います。顔色が悪い、ふらつく、などの分かりやすい症状が見えた時点では、すでにかなり重症だと思われます。

鉄を食事から十分とるのも、そう簡単な話ではなく、厚生労働省の鉄摂取推奨量は3-5歳で5.5mg/日なのに対し、国民栄養調査では、男子で4.3mgしか摂取できていないなど、平均値で見ても不足させています。鉄5.5mgというと、鉄分が比較的多い牛もも肉で200g、卵で6個ですから、毎日この量を充足させるのは、難しそうですよね。

そもそも鉄というのがなぜ体にとって大事であるかは、前回の記事を読んでいただければ理解いただけると思いますが、乳幼児期ならではのある要因から、鉄不足を原因とする貧血のリスクが乳幼児において高まることを説明します。

まず1点目の要因としては、生後6か月以降の「離乳期」に鉄を不足させやすいことがあります。この現象は、主に母乳で育てられた赤ちゃんに見られやすいのですが、お母さんの母乳に含まれる鉄が、それまでの授乳によるお母さんの貯蔵鉄(筋肉などに貯められた鉄分)の減少によって少なくなることが原因です。生理が早めに再開したお母さまなどでは、さらに体内の鉄分が減ってしまっており、母乳中の鉄分が少なくなっている可能性がありますね。

また、2点目の要因として、大人と違って日々大きく成長し続けている乳幼児は、体の鉄分の要求量も日々大きくなり、鉄が不足しやすくなる状態になります。赤ちゃんも、妊娠期間中にお母さんからもらった鉄分を貯蔵鉄として体内に貯めて生まれてきますから、そこから鉄分分足を補うことはできますが、やがて食事での鉄供給が、離乳食の遅れやたんぱく質不足のメニューなどにより追い付かなくなると、貧血が起きてしまいます。特に貧血であったお母さまから生まれてきたお子さまや、早め・小さめに生まれてきたお子さまは、貯蔵鉄も少ないので、より貧血になりやすいと言えます。

子どもに起きた貧血の影響

では、鉄を不足させてしまうと、子どもの健康にどのような影響が出るのでしょうか。影響は大きく分けて2種類に分かれます。まず一つ目は、身体への影響。体重増加や身長の伸びが悪くなる、また、筋肉など運動器官への酸素供給が不足してしまいますから、体の動きがにぶくなってしまったり、ふらつきやすくなったりする可能性があります。また、あまり知られていないことですが、鉄は脳にとっても非常に大切な栄養素。子どもの認知面や感情面の発達にも、影響が及びます

そして驚くべきことは・・鉄を不足させているその時だけではなく、乳幼児期の鉄不足がその後10年も20年も長く健康に影響を与えること。例えばコスタリカの乳幼児を対象にした研究では、1歳のときに重篤な鉄欠乏性貧血であった子どもたちが、そのときに鉄剤の投与などにより貧血を改善させたにも関わらず、約10年後の検査で、算数や筆記、運動、その他認知能力が低くなっていることがわかりました※。

また、これは鉄に限った話ではありませんが、早期の栄養改善に関する効果が実証されつつあり、たとえば2歳までに栄養改善を行った男性の群では、栄養改善がされなかった群に比べて、大人になったときの賃金が46%多かった、というようなデータも出ています※※。この論文では、3歳以降に栄養改善を受けた男性の群では、栄養改善を受けなかった男性の群と比べて賃金が同等でしかなったということも述べられており、いかに生後数年、早期の栄養状態が重要であるかを物語っています。

いやいや、とはいっても、子どもの貧血なんて珍しいでしょ・・と思った方。国や地域、年齢によって差はあるものの、4人に1人ほどの子どもが貧血であると言われています。ラブテリの調査でも、2~5歳の約4割の子どもが、貧血のリスクが高くなっている可能性があるという結果が得られています。

ではどのようにして子どもの貧血を調べるか?

子どもの貧血が気になるので、お医者さんに飛び込んで「子どもの血を抜いて調べて下さ~い!」といっても、明らかな症状がないのに嫌がる子どもの採血をするようなお医者さんはいません。そこでラブテリが最近セミナーで活用しているのが、指先にクリップを挟むだけで簡単に血中ヘモグロビン濃度を測ることができる機械。大人では今までもあったのですが、新生児から測れる機械は、非常に珍しいものです。

ラブテリは、この機械を使い、日本における乳幼児の貧血の実態把握と、その要因についての研究を進めようとしています。この研究により、鉄強化食品や給食への鉄強化など、子どもの貧血を効果的に予防する方法の開発、そして、気になったときにさっと調べることができる貧血スクリーニング環境の整備を実現したいと思っています。

また、ラブテリの調査では、子どもの貧血リスクが高かったお母さまでは、お子さまの情緒面や機能面での難しさが原因か、お母さまの幸福度が低くなっているということもわかっています。この研究が、子どもたちの健康だけではなく、お母さまお父さまの気持ちを少しでも楽にし、前向きな気持ちでの育児ができるようお役に立てればと思っています。

クラウドファンディングサイトには、実際の測定機械の写真もありますので、ぜひ一度ご覧いただき、みなさまのあたたかいサポートをいただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

出典
※ Lozoff et al. Poorer behavioral and developmental outcome more than 10 years after treatment for iron deficiency in infancy. Pediatrics. 2000 Apr;105(4):E51.
※※ Hoddinott et al. Effect of a nutrition intervention during early childhood on economic productivity in Guatemalan adults. Lancet. 2008 Feb 2;371(9610):411-6.

\私が記事を書きました/
横尾美星: ラブテリ研究チーム所属。2児の母。現在、日本人乳幼児の貧血の実態把握、およびその要因を調べる研究を大学と共同で計画し、今秋の実施に向けて、準備に勤しんでおります。

いいなと思ったら応援しよう!