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【逗子日記】 20230820

 連絡が来た朝だった。僕にしてみれば珍しい朝だ。「行くよ」と返すことができた。夜、「返事は明日でもいいよ」なんてメッセージを送るたちでもない。そんな関係性の人もすぐには思い当たらない。
 古民家へ行くと、そこは夏祭りの会場だった。似合っていた。だって元から、いや、ここはいつもそんなことばかりをやっている愉快なやつらがいる場所なのだ。自主制作の夏祭りを実現させていた。
 8月20日。夏は終わる。夏は終わっても、暑さが終わってくれることはない気候に僕はうんざりしながらも、今年も夏は終わってくれる。夏は清々しく終わる。
 長すぎる会議に体調を崩した。作品への過剰な感情移入。避けられない。作品を紹介する人間への過剰な感情移入。避けられない。僕はトイレに歩いた。そしてついには戻ってきたのだ。しかしどうだろう、もうそこにいることはできなかった。僕はその場から逃げ出した。発作に対する最善の手段を使うことができた。僕は病気を支配するために、全力で自転車を漕いで家に帰った。そして僕は病気を支配するために、薬を飲み、眠りについた。
 起床。…………痛み。………痛み。……痛み。…痛み。痛みへの認識だ。僕は夜の街を歩き出した。当てもなく、いや、痛みから逃げるために。なんでも良かった。ご飯を食べた。今日は牛丼だった。僕は目的を決めることなく夜の街を歩き出していたのだ。ただひたすら逃げ続けた。イヤホンから聞こえる音楽の意味を感じていなかった。
 逗子アートフェスティバルのプロデューサーにコンビニで会った。昼間のことだ。少し前に渡した自主制作のCD-Rの内容を誉めてもらった。3曲入り、少しずつアヴァンギャルドになっていく流れ、形式のない音楽が好きだという。僕は題名の意味を説明した。その曲の題名は、死体が置いてある部屋の空気清浄機の音の記憶が由来だ。
 15枚焼いたCD-Rも残りは数枚になった。誰かと音楽の話になった時、僕はその人に、その音源を手渡しするつもりだ。リュックサックに入れておくその現物。作品は僕から離れていく。僕は失われていく作品を見ている。

『しおんの花かげ』CD-R


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