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逗子巡礼 五十詩五十景 - 序章 ~ 第一章

逗子巡礼 五十詩五十景

目次

序章 喫茶店から詩人になる
第一章 逗子

第二章 桜山
第三章 沼間
第四章 池子
第五章 山の根
第六章 久木
第七章 小坪
第八章 新宿
終章 (???)

序章 喫茶店から詩人になる

 煙草の煙を初めて肺に入れた時の鼓動は痛みの余震か。僕はすぐさま創作のことを考える。町を歩き回り、詩を書きたい。どうせ暇なのだから。時間だけはあるのだから。あの鼓動は、あるいは高鳴りは、もしかすると病気によって引き起こされる痛みの予兆ではなく、あの瞬間だけの、純粋な己の感情だったのかもしれない。痛みを受け入れずして僕はどうして僕を抱きしめてあげられるだろうと思っていた。僕は、痛みではないお前の予感—鼓動—を受け入れずして、どうしてお前たちそれぞれの叫びを聞くことができるだろうと思う。僕は鼓動を分類し始めた。長きに渡る自律神経の不調か、あるいは底知れぬ好奇心か。
 ファミレスのエッセイを読んでいた。舞台はコーヒー屋でも、ハンバーガー屋でも、長い時間居座れる安いチェーン店なら何でも良かったようだ。
 僕は計画を思いついた場所で現在の時刻を確認すると、だいたい14時くらいだった。平日の昼下がりである。朝に強い社会不適合者を見たことはない。夜に弱いそんな人とは話してみたいと思う。お互いに、本当は朝も夜も同じくらい弱いのではないか。昼は何もできないか、何でもない何かをしていることだろう。つまり僕たちは時間に弱いのではないか。そうあり続ける未来を想像すると、いや、そもそも何も考えなくても現代社会においては絶望的な状況だ。
 しかし、僕が黙って煙を吐き出すと、雲の緊張はほどけて空に消えた。果てしなくしょうもない架空の対話にため息が出た。しかしながら、僕がこれから歩く町は実在している。
 神奈川県逗子市。逗子、桜山、沼間、池子、山の根、久木、小坪、新宿。
 斯くして僕はその五十町丁を歩き回り、詩を書くことになった。
 あとは一枚の写真でもあれば十分に楽しさが伝わることだろう。

第一章 逗子

・逗子一丁目

青く光る夜の鷗
今夜も海岸は暗黒に包まれる
ブルーアンドブラック
入れ替えても交わる 鳥と波


・逗子二丁目

すいどう道の行き止まり
小鳥たちがうるさいよ
ブタクサには近寄るな
水は海に誘われている


・逗子三丁目

ここはどこさと
それでもここに
松の葉は揺れない
空き地より静かだ


・逗子四丁目

こちらとそちら
国境を跨いでいても
僕らは出会うべき
赤い橋のベンチの向かい側で


・逗子五丁目

いくつもの橋があり
いくつもの名があり
変わっていく風景を見る
石碑を建てた偉人の名はとくとみ


・逗子六丁目

六丁目は挨拶をする町です
散歩中の犬 庭にいる花
音が出る楽器
朝昼夜 いつも帰路に着く


・逗子七丁目

黒い鳥が飛び立った
水の色が揺れている
そして白鳥はじっと
その目を閉じている


「第二章 桜山」へ続く


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