【掌編】凌霄花
詩を書く者、朝此処に居る。
帰路にて北東へ橋を越える時、再び大木の影が水面に靡く、穏やかな流れを見て立ち止まったのだ。橋上から海は見えない。此処には海へ続く川があるだけだ。名を久木川という。袂に咲く花の名を、彼は小さな図鑑で調べていた。田舎で作ったママレイド・ジャム-jammesのような色だ。目を閉じ彼は墓-tombeauに成っていた。
絵を描く者、昼間此処に居る。
海へ向かう人々の手前から南東の風景を睨んでいたのだ。この橋には彫刻も音楽も無い。名を東郷橋という。セーヌ-seineに及ぶと彼は思う。
- 北東南西 橋長四千七百型-ligne 将軍の凱旋祝いに因む 約百年の歴史を持つ -
此処は町と海とを分ける美しい象徴である。清流の模様に香る印象派-impressionniste、それを背景に記念撮影をする人々。彼らの笑顔は余りにも大きい。彼は少しだけ外国語を話していた。
楽器を弾く者、夜此処に居る。
ラヂオを抱えたオヤヂ、トワイライト・プレイリストから流れるはヂャズ、水辺に佇み-I Cover The Waterfront。音楽の前に彼は役所へ行った。そこからシンボルロードは、郵便局と橋を超え、海へ続く。亡き祖父のケエナを、アンデス山中の川沿いに向けて届けていた。
芸術を知る者、此処で吹き荒れる。
殺風景な川沿いに、橙色の花を見る。
作:矢野南
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