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【建築・インテリアを考える前に読むブログ】第14回 『K Residence』

今回の記事はYoutube動画でもご視聴になれます。
こちら>からご覧ください。

ご依頼の経緯

まず一番最初に2つの土地をクライアントと一緒に見に行きました。
どちらも建物付き物件だったので解体工事から必要になるという条件で、
予め聞いている予算とどういった家が欲しいかという要望を聞いていて、
私なりに新築の建物にはこれぐらいかかるだろうなという試算があり、
残りの金額の中で解体工事や外構工事を考えると
このままではちょっと難しいかもしれないという中で
最終的に行き着いたのが今回の計画地でした。

この計画に関しては正直もう一つの土地の方が設計が簡単でした。

なぜなら今回建てることになった土地は傾斜地だからです。
結構変わった敷地で、もともとは低い側一面だけ接道してたので
入り口もその低い方にあったのですが、
開発が進み、後に高い側(裏側)も接道するようになり、
その表裏で高低差が3~4mほどある土地です。

入り口をどちらにでも設定できるような敷地なので
なかなか設計者泣かせではありますが、
考え方によっては面白くもある敷地で、
既存の擁壁がしっかりしている為、そのまま使うことができるということもわかり、予算内で賄えるかもしれないということで計画がスタートしました。


要望と解決に至るプロセス

まず取り掛かったことは「これぐらいの広さでこんな部屋が欲しい」
といった要望をどのようにレイアウトするのかという検討です。

要望の一つとして、入り口に関して土地の低い方と高い方という
2つの選択肢がある中で、高い方を入り口にしたいというもの。
なぜかというと、お母さんが同居されるということで2世帯住宅になるためです。
お母さんも住むので段差なく建物に入りたいが
低い方からのアプローチでは必ず上に上がる必要があります。
そのため高い方である2階を入り口にしたいということでした。

2階に入り口を持ってくるということは、
2階にリビングがきてお母さんの部屋がきて、
というところから2階と1階のゾーニングを最初に行い、
そしてそれが本当に可能かという検証から始まりました。

傾斜地で2世帯で、そのほかの間取りにおける要望もある中で、
この予算で要望を全て賄うのはかなりシビアで不安も大きかったのですが、
途中で予算を追加して頂けたということもあり、
少しずつ少しずつ不安を取り除いていきました。

解決方法というのは単刀直入に言うと、どれだけ無駄なスペースをそぎ落とすか

例えば昔の住宅の場合、廊下があって廊下経由の部屋というのが
王道なのですが、それをなるべくカットしようとまずは考え、
基準階である2階に関しては廊下らしい廊下はなくしました。

そして、リビングから階段室を通って1階に行くのですが、
その階段室を階段室として見せないようにしたいという考えがありました。

つまり階段室をもLDKに取り込みたいという思いがあり、
リビングと階段室を間仕切ってる部分をガラスにしました。

階段室の天井も壁もガラス越しにリビングと繋がっており、
丸見えなので階段室もリビングの延長上のように感じることができ、
少しでもその限られた空間の中で広く感じられるようにしました。

1階に関しては、夫婦の部屋、お子さんの部屋、仕事部屋、浴室と
部屋がたくさんあるのでどうしても廊下を作らざるを得なかったのですが、
その中でもなるべくロスが出ないようにプランニングし、
建てられる制約の中で極限まで無駄をそぎ落としたという自負はあります。
例えば、1階の階段下に関しても納戸のようなスペースを設けるなど
うまく処理できたのではないかと思っています。



デザインワーク

当然店舗と違って住宅というものは、この先何十年も住むものなので
あまり突飛なものをやるのは良くなくて、
シンプルでかつ飽きがこないという普遍的な空間
ということを念頭において住宅は考えています。

キッチンから全ての空間が見渡せるように、他の住宅でもいつも心がけています。
奥様が「主人が帰ってきた」「子ども達が帰ってきた」「お母さんが帰ってきた」
という場面を見渡せられるような空間であるようにまずプランニングしています。

その他では、例えばキッチンには冷蔵庫という大きな箱が入ります。
そして今回の住宅では仏壇をリビングに備えたいという要望がありました。

これらを"仏壇置き場"とか"冷蔵庫置き場"というように
かしこまって配置することはなくしたいと思いました。

ごくごく自然に空間になじむようにしたいと考えた結果、
どちらも一見どこにあるかわからない造りにして
扉を開くと実はお仏壇や冷蔵庫が格納されていて、完全に隠すこともできる
というような設計をしました。

お客さんが来ている時に冷蔵庫を開けたり中を見られるのが嫌という方もいるし、
人によっては紙などをマグネットで貼ったりする方もいます。
そういう生活感をぱっと隠せるようにしています。

その扉も”扉然”としているわけではなく壁と同じ仕上げにしており、
ぱっと見た時に色々な空間がシンプルかつ理路整然と
合理的に収まっているようなデザインに仕上げています。


外観はインテリアとはデザインのテイストをわざと変えています。
先にも言ったように、傾斜地で基準階となるメインの入り口が2階なので
一見平屋に見える建物です。

平屋というものは威風堂々とした方がいいと昔から私なりに考えており、
そのようにさせるにはどうしたらいいかという観点から検討した結果、
今回はタイルや石を多用しています。

ベースはブラックのスレート石を貼り、
全部が黒だと重々しくなりすぎるので余白の部分に白をとり入れています。

デザイン的には、最近の真新しい感じのデザインにはせず、
どこか古くもあり新しくもある、そしてなおかつ室内と同じく
この先何十年経っても古さを感じさせないようなデザインを意識しています。

屋根にも特徴があり、玄関先の軒の出が2m近くあります。
これが威風堂々とした外観になお拍車を掛けようにデザインしました。

クライアントも私と同じで40歳を超えており、
そういう年齢層が家主である家にふさわしい風格のようなものを
外観には取り入れたいという思いでデザインしました。

床を一部人工地盤として人工的に作っている部分があります。
その構造的な検討や建築基準法の基準を満たしながら成立させるために、
色々なシミュレーションや建築確認申請を提出する民間の審査機関との調整など
全て解決した上で成立しています。

そして、家の中だけで上下を行き来できるのではなく、
外からも上下に行き来できるという土地の使い方ができると
空間として面白いと思い、
2階のリビングから屋外のテラスに出ることができて、
そのテラスから階段で1階に行くことができるように設計しました。
このような実はあるようでないような土地の使い方が
できているのではないかと思います。

機能性について

家族が家の中で一番長い時間居る場所は当然リビングです。

例えば私の暮らしがそうなのですが、リビングで色んなことをします。
ご飯を食べる、家族と会話をする、テレビを観る、子どもがダイニングテーブルで勉強をする。その空間でさまざまなことを完結できることが、理想のリビングのあり方だと考えています。

今回の設計では当初から要望にもあったのですが、
リビング内に段差を設けています。
段差を作ることによって子供の遊び場にもなりますし、
家族が団らんする時のベンチにもなります。

この段差がちょうどいい"停まり"の空間になっているので
子供たちが段下空間でいろんなおもちゃで遊ぶこともできるし
その他にも色々なことがリビングで実現できる空間だと思っています。

そしてその様子をお母さんがキッチンにいながらずっと見守る、
リビングと繋がっている横の部屋には祖母がいるので何かあればすぐに気付くことができ、究極的には2階だけで生活が完結できるように考えました。

そして天窓について。
これはなぜ付けたかというと、
もちろん建築基準法の中の採光面積を確保するために
必要だということもありますが、
天窓というのは空からの光を取り入れるには格好のツールで、
電気を消したとしても、天窓からの光でかなりの照度が確保できます。
建築基準法でいうと壁面の窓の約6倍の照度を取れる計算ができるほどです。

自然光を室内リビングに取り入れるには格好の存在で、
リビングは一気に明るくなります。
明るいリビングというのはやっぱり家庭も明るくしてくれます。

住宅の中で一番のベースになるリビングが明るい空間というのは
私はマストだと思っており、このように天窓を取り入れたデザインにしました。

外観において軒はもちろん威風堂々というイメージの中の要素の一つであり、
軒の出を2m弱迫り出させたのはデザイン的な処理もあるのですが、
実用面では駐車スペースで乗り降りする時のカーポートみたく
屋根になって雨よけできるような存在として迫り出させたという側面もあります。

中と外全てのデザインでいうと
やはりこのような高低差のある傾斜地だからこそ
多種多様な使い方、住まい方ができるのではないか
と考え、
建物内の階段だけではなく、外部で1階と2階に行き来できる階段であったり、
人工地盤を作って駐車スペースを広めてみたりなど、
見た目は基準階が2階だから平屋に見えるけれども、
実際は2階建てでアプローチは2階からでも1階からでも可能というように、
空間全体をダイナミックに使うことができました。
ですので住宅としてはありそうでないような空間の使い方をしている住宅なのではないかと思います。

完成後

私は素直にとても良い住宅になったと思いますし、
最初のイメージパース通りに仕上がりました。
工期は押しに押し、やはりそれなりに大変だったのですが、
今までの経験上、プランを作ってパースを作る時にはいい空間になるかならないかがなんとなく分かります

きちんと図面通りに建ててくれたら間違いない
というのは経験上分かっているので。

今回もパースが出来上がった時に
「ああ、これはいいな。良い家になるぞ。」
ということは分かっていました。

ですので、最後的に工事終わった時は、その答え合わせというか「やはりいいな」と。

ただ、それはデザインをしている側だけが思っててもただの自己満足です。
どの物件においても最終的にクライアントに喜んでもらわないと自己満足に過ぎません。

その点、クライアントからの評判も良く喜んでいただけているので
やはり良かったなと思います。

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