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【小説】日本の仔:第28話

「まず全員「日本の子」であること。そして父親が同じ人物であること。即ち、皆さんは兄弟ということになります」

 なんと!

 確かに「日本の子」の父親は精子を提供しているだけだから複数の子の父親になり得るけど、実際に自分に兄弟がいると言われてもピンと来ないな。
 見た感じ、全然違う人間に見えるし。

「そして、皆さんの父親は徳永秀康という人物です」
 えー!
 徳永秀康って、あの常温核融合やAIコンシェルジュを発明した伝説の科学者?
 じゃ、腕時計や自転車は徳永秀康が贈ってくれてたってこと?

「私のお父さんは私が小さい頃に亡くなったとお母さんに聞かされました」
 元気そうだった女の子が神妙な口調で、独り言のように言った。
「日本の子」だと知らされずにいる人もいるんだ。

「ここにいるのが徳永の子どもなのは分かった。俺が聞きたいのは何のために集められたかだ」
 また小学生が鋭い質問をする。
「それはこれから詳しくお話しします」
 鍊も神妙に話を始めた。

 僕らの父親である徳永秀康は数々の発明をして、アメリカでの海洋プラスチック除去のためのマイクロマシン敷設作業を視察している際に失踪した。
 その後の消息は完全に不明。

 そして、数年前から全世界での常温核融合炉の停止、宇宙煙突の暴走、中東、ロシアを始めとする世界中の石油掘削、精製設備の何者かによる破壊、新型コロナウイルスの蔓延と、不可解な事件が続いており、これらの事件には徳永秀康氏が関係していると考えられている。

 そして、
「皆さんは、徳永秀康氏の遺伝子を引き継いで、何らかの特殊能力をお持ちだと思われます」
 と衝撃的な話をされた。

 !! 僕のこの人を殺せる能力は遺伝によるものだったのか...

 ということは、ここにいる皆、念じるだけで人を殺せる位の能力を持っているということなのか。

「既にはっきりと分かっているのは、楢原武蔵くんの驚異的な視力と藤堂瑞希さんの人を心臓麻痺にできる能力だけです」

 う、僕の能力がバレてる。
 何故だ。

 そこに一人の女性が会議室のドアを開けて入ってきた。
 か、彼女は!

「母ちゃん!」
「人前で母ちゃんて呼ぶなっていつも言ってるでしょう!」
 楢原武蔵と呼ばれた小学生を叱った彼女は、僕が図らずも殺してしまった会社の上司だった。
 何故生きているんだ...

「藤堂くん、久しぶり。あの時私を殺しちゃったと思ってた?ま、多分本当に危なかったんだけどね」
 と、元上司はそれまでの経緯を話し始めた。

 徳永チルドレンは皆政府から監視されていて、僕の能力が心臓麻痺で人を殺せることだと、小学生の頃の事件と高校生の時の事件から推測し、危機的状況を作れば能力を発揮すると予想した。
 彼女は自衛隊員であり、僕の能力を僕から聞き出す任務を与えられ、僕のチンチンを切り取ろうとけしかけて、自白をさせたというのだ。

 確かにあの時、自分から彼女を殺してしまうことになるかもしれないといった話をしてしまった。
 その後、彼女が倒れたのはフェイクだったらしい。

 よかった。
 殺してなかったんだ。

 そして彼女は、あの時話していたように「日本の子」政策に応募して合格し、武蔵くんを産んでいたらしい。

「そして、坂本茉莉さんは驚異的な筋力と体力をお持ちなのではと推測しています」
「そうよ。これから自転車競技でオリンピックを狙おうと思ってるもの」
 へー、見た目はほっそりとしてモデルみたいな体型なのに、スゴい娘なんだな。

「品川果歩さん、あなたは何か普通の人にはない能力をお持ちではないですか?」
「そんなことより、何よこれ、就職の面接じゃなかったの?」
 品川果歩と呼ばれた女性はちょっと突っかかる感じで鍊に詰め寄った。
「ある意味就職に関係しているとは言えます」
 と、鍊がじっと彼女の目を見ながら言った。
「あなた...いえ、何でもないわ」
 彼女は一瞬困惑した表情を浮かべた後、席に戻った。

「さて、これからが本題になりますが、皆さんにはある任務を担っていただきます。とても困難ですが、達成すれば世界中から感謝されることになるでしょう」
「任務?僕、仕事があるんですが」
 初ゼリフが何か情けない感じになった...

「皆さんの勤め先や学校、ご家族には既にお知らせしてありますので、ご心配には及びません。皆さんには今進行している地球氷河期化を阻止していただきます」
 そういうのは国連軍とか自衛隊がすることでは?

「恐らくこの任務を遂行できるのは世界中であなた方しかいません」
 確かに特殊な能力を持ってはいるけど、そんな大それた事はできる気がしないけど。

「もちろん、今のままではムリだと思いますが、少し時間を掛けて色々な訓練をしていただきます」

「まだ引き受けるって言ってないんですけど」
 品川さんがまた食い掛かった。
「残念ながら皆さんに拒否権はありません。それが「日本の子」の勤めですから。既に皆さんのお母様には承諾をいただいています」

「確かにうちのお母さんなら承諾しかねないわ。試練とか大好きだから」
 坂本さんはちょっと諦めたようだ。

「では任務をご説明します。この事件の首謀者と見られる徳永秀康氏を確保し、地球氷河期化を止める方法を聞き出してください」
 えー?
 大雑把な説明だな。

「もう一つ、徳永チルドレン、即ち皆さんの兄弟はもう一人います。まずはその人物を見つけてください」
 兄弟がまだいるのか。
 でもこの世の中、国の機関に見付からずに生活できるのか?

「彼女の名前は假屋崎静、年齢は14歳です。母親が1年前に亡くなり、「日本の子」が教育を受ける施設で暮らしていましたが、1ヶ月前に行方不明になりました」
「そんな施設から行方をくらませるということは、相当な力を持っているな」
 武蔵くん、いちいちセリフが大人っぽい。
 でも確かにこの監視社会で、見付からずにいなくなるなんて、普通の人にはムリだ。
「假屋崎さんも消息は全く掴めていません」

「日本の食糧、工業資源等の備蓄量からタイムリミットは2年です。それ以上掛かるとたくさんの人が死ぬことになるでしょう。徳永氏の居場所は恐らくアメリカです」
 すると今度はアメリカの状況について話が始まった。

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