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【小説】日本の仔:第14話

【兵頭 新】(陸上自衛隊西部方面隊司令官)
「空自司令部より入電!迎撃に上がったF-2が全機撃墜されたとのことです」
「全滅だと?!敵は?!」
「撃墜確認はありません。全機こちらに向かっています」

 中国の新型ステルス無人機、通常兵器では墜とせないのか。
 護衛艦とF-35、地上からの対空ミサイルで太刀打ちできるか?
「あと何分で到達する?」
「10分ほどかと...」
 時間がない、どうすれば...
 F-2で迎撃できないとなると、護衛艦、F-35でも迎撃できないと考えるべきだろう。
 何か他のオプションはないのか?

「空自司令部より再び入電!種子島の南南東80kmの海域に原潜の温排水を探知。至急哨戒中のF-2を現場海域に向かわせ、P-1対潜哨戒機をスクランブルさせたとのことです!該当海域に米英豪印原潜の航行はありません」
「また中国か!まさか裏からも来るとはな」
 東シナ海からだけと思ったが、対潜網をくぐって日本海溝からもとは。

「F-2からの映像が出ます!」
 司令部のモニターに映像が出てすぐに水平線の彼方で白い飛沫が上がるのが見えた。
「原潜の緊急浮上です!」
 まずい!ミサイルを射ってくるぞ!

 映像上に白い線が一気に伸びる。
「浮上した潜水艦からミサイルの発射を探知!ミサイルは巨浪3SLBMと思われます。弾頭が核であるかは不明!」
 本当に射って来やがった。
 そこまで脅威なのか、この宇宙エレベータは!
「ミサイルは6基、全て種子島宇宙センターに向かっています!」
 核弾頭だったら島ごとなくなっちまうぞ!
 なめた真似しやがる!
 恐らく通常弾頭で宇宙センターを破壊しようと言うことだろうが、中国は日本と完全に敵対する事を決めたのか。

 本土のイージスアショアで間に合うか?
 本土に配備されたイージスアショアに迎撃指令を通達する。
「一基残らず撃ち落とせ!」
「司令!SLBMが低高度のまま侵入してきます!」
「何?!」

 イージスアショアは弾道ミサイルが高高度を飛翔する際に迎撃するように設計されているため、低高度のミサイルはほとんど迎撃できない。
「これは通常の巡航ミサイルか!海上自衛隊はどうなってる!?」
「護衛艦2隻が既に迎撃体制に入っています。迎撃ミサイルを発射!あ!レーダーが敵ミサイルをロスト!!迎撃ミサイルはミサイルの従来位置に向かって飛行を続けます」
「何?!ロストの原因は?!」
「恐らく10m以下の超低空へ降りたか、ミサイル自身がジャミングを掛けたと思われますが、F-2のレーダーからもロストしていることから、高度なジャミングが掛けられたものかと」
「このままだと3分で着弾してしまう。沿岸に配置した高射隊に対空砲での迎撃を指示、誘導弾は使えないと伝えろ!」
「了!」
「一発でも被弾したら宇宙エレベータは振り出しだ!絶対に通すな!」
「沿岸警備隊が敵ミサイルを視認!迎撃を開始します!」

 高射砲及びファランクスによる迎撃が始まるが、敵ミサイルはすんでのところで軌道を変え、こちらの弾をかわしていた。
「司令!敵ミサイルがこちらの迎撃をかわしています!」
「どういうことだ?!そんなミサイル聞いたことないぞ!」

「しょうがないなぁ」
 いつの間にか隣に高校生くらいの男子が立っていた。
「誰だ、君は?!」
「徳永だす」
 そう言うと、スマホに向かって
「時子、接近中のミサイルを破壊しろ」
 と言った、途端に種子島宇宙センターに迫っていた6基のミサイル全てが火の玉と化して海に落ちた。

「な、何が起きたんだ?!」
「そう簡単に邪魔はさせないぜよ」
 砲弾、銃弾を避けるミサイルが、なぜ前触れもなく燃え上がったんだ?
「多分まだ終わりじゃないよ」
「間もなくP-1対潜哨戒機が潜水艦浮上地点に到着。ソノブイを投下します。潜水艦から再度ミサイル発射を探知!今度の弾道は直上コースの模様!」
「核弾頭の可能性は?!」
「不明ですが、核であれば上空1,000mで爆発し。宇宙センターは壊滅です!」
「迎撃!間に合うか!?」
「また避けられちゃうんじゃないのー?まあ、俺っちの近くで核分裂なんてさせないけどね」
 この子は何を言っているんだ?

「迎撃ミサイル、本土から計4基が発射されました。弾道の頂点で到達予定です!あ!敵ミサイル弾頭が6つに分裂!」
「やはり核か!」
「迎撃ミサイル到達まで15秒!命中したとしても2基の弾頭が逃れます!」
「まずいな。他の迎撃オプションはないのか!?」
「PAC-3地対空ミサイルがあります!」
「よし!爆発前に必ず撃ち落とせ!」
「イージスアショアが全弾命中!4基は撃墜しました!残り2基が接近中!」
「落ち着け。この弾頭には回避能力はなさそうだ。ミサイルで撃ち落とせる」
「弾頭が更に分裂!計6基になりました!」
「何!?」
「敵ミサイル6基、高度1万メートルまで降下!迎撃ミサイル発射します!」
「頼むぞ!」
「PAC-3が発射されました。計6基、高度5千メートルで迎撃予定です」
 種子島の各地に配備されたPAC-3全基が核弾頭の迎撃のために発射された。一つでも逃したら宇宙センターは壊滅だ。

「迎撃ミサイルの誘導レーダーが弾頭をロスト!」
「またか!」
「弾頭がECMを掛けたものと思われます!」
「まずい!」
 このまま突入されたら終わりだ。何か迎撃オプションはないのか?

 その時、例の少年がまたスマホに向かって何か命令をした。
「上空から飛来する熱源探知後、熱源の核分裂を無効化しろ」
「6熱源を探知。ガンマ線パルスレーザーを0.5秒ずつ照射。搭載されているウランを一時的に安定化させました」
 スマホが命令に対して応答した。
「もう大丈夫だよ。落ちてはくるけど、爆発はしない」
 徳永が落ち着き払って兵頭に言った。
「何をしたんだ?」
「迎撃隊が敵ミサイル弾頭を目視。既に高度が1,500mまで落ちています。爆発まで3秒!!」
 通信士官が叫ぶ。
「大丈夫だって言ってンのにぃ」
 徳永が呑気に言う。
「目視でのファランクス迎撃、間に合いません!」
 その瞬間、鈍い光点が6つ見えたがそのまま何も起きなかった。

「ど、どうなったんだ?」
 兵頭は自分が核爆発を恐れて無意識に頭を抱えて蹲っていたのに気付いて、ばつが悪そうに言った。
「弾頭に入ってたウラン235を一時的に核分裂できないほどに安定化させたんだよ。ちょこっと光ったのは、核分裂を促すための炸薬による爆発ね」
 徳永はめんどくさそうに説明した。

 助かった?!と思った瞬間、兵頭は何か忘れていることに気づいた。
「しまった!接近中の敵ステルス無人機はどうした!?」
「レーダーコンタクトロスト!目視もできていません!」
 まずい!

 そんな中徳永が小声でスマホに追加命令を下した。
「あー、ついでに接近中のステルス無人機、有効射程に入ったと同時に撃墜ね」
「アクティブ光学迷彩を10確認。迷彩によるレーザー効力が15.2%まで減少。地上からの陽電子砲による攻撃を提案します」
「あいよ。いてこませ!」
 パパパパパパパパパパ!!
 ほとんど目の前に感じる距離で10個の閃光がほとばしった。
 ここまで肉薄してたのか...
 ステルス無人機は空対地ミサイルを積まず超低空から特攻しようとしていたらしい。危なかった。

「さてと、とりあえず中国はこれで手詰まりかな?」
「中国はというと、まだ他の国が何かやって来るというのか」
「昨日の味方は今日の敵ーってね。ちょっとヘリ貸してもらえる?」

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