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わたしの庭〈ある日突然〉

突然、庭にキノコが生えた。暑さと台風の置きみやげ。
大きく開いた白い傘。直径10センチ、いや15センチはあろうか。フライパンでジュージュー焼いてポン酢をつけて食べたら、おいしそう。
ああ、でも…… 図鑑で調べたところ、オオシロカラカサタケにまちがいない。
毒キノコである。誤って食べると、頭痛、悪寒、下痢、嘔吐、血便…… 死亡することもあるらしい。
腐生菌。たしかに、わたしの庭でも、枯れ朽ちて根だけ残った木の近くに生えている。
亜熱帯原産の帰化生物。近年の温暖化で、急速に日本列島に生息域を広げている。

毒キノコといえば、「遠野物語」(柳田国男)の中の、こんな話を思い出す。

ある村の長者の屋敷の梨の木のまわりに、見慣れぬキノコが、びっしり生えた。主人が「よせ」というのに、下男は「毒抜きすれば大丈夫」といって、調理してしまった。キノコ汁か雑炊か。主人一家と使用人、合わせて20人、それを食べてキノコにあたって死んでしまった。一家全滅…… ではなく、七歳の女の子がひとり、生き残った。食事のとき、外に遊びに出ていて食べずにすんだのだ。

女の子は、さぞ驚き、恐れ、悲しんだことだろう。おなかをすかせて帰ったら、家中の者が、のたうちまわって苦しみ、死んでいくところだったのだから。
生き残った女の子は長生きし、柳田国男がこの話を採取した少し前に亡くなったという。子は残さなかったというが、その人の生涯に少しでも光が差していたらいいなと思う。

遠野物語のキノコは、オオシロカラカサタケではなさそうだ。なんだろう? もっともっと毒性の強い、猛毒キノコ。

さて、わたしの庭のオオシロカラカサタケ。一夜明けて見たら、傘がすっかり開き、直径20センチを超える大きさになっていた。高さも20センチぐらいで、全部で五本。傘の裏の襞から胞子がもうもうとまいあがり、風に乗って飛んでいくのだろうか。

しげしげとながめていたら、キノコが食べたくなってきた。今日の夕食は、キノコご飯にしようかな。


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