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くるくる電車旅<詩人に会いに>

清須市のはるひ美術館で、谷川俊太郎の展覧会が開かれているときいたので、見に行くことにした。
すぐとなりの町にあるのに、行ったことのない美術館。ホームページを見ると、JR清洲駅から徒歩20分とある。歩けない距離ではないなと思った。
10月も終わりのさわやかな秋晴れの日、
駅からの道順をだいたい頭に入れ、いざ出陣!と家を出た。

名古屋駅に着くと、ホームでは岐阜行きの普通電車がすでに来て、発車を待っていた。
名古屋駅から清州駅まで、わずか二駅。
乗っていた時間は、10分もあったかどうか。
 
駅を出ると、はるひ美術館こっち、清洲城あっちと、案内板が立っていた。清洲城には、何度も行ったことがある。わたしの好きな織田信長の城だから。城に行くときは、名鉄に乗る。名鉄の駅から清洲城まで、五条川の堤防の道を歩くといい気持ちだから。しかし、今日は、はるひ美術館。初めての道。

案内板に指示された方向にしばらく歩くと、電柱に、はるひ美術館あっち、の矢印があった。矢印の向きに道なりに歩く。
てくてくてくてく……
別れ道に来ると、また電柱に矢印。
てくてくてくてく……
刈り入れの終わった田とまだ稲穂の垂れている田の間の道を、
てくてくてくてく…
今年の秋は暑い秋で、刈り入れを待つ稲たちもカサカサして燃えだしそうだ。

はるひ夢の森公園という広い公園の中に、美術館は、あった。入館料の千円を払い、中に入る。平日のこともあり、来館者は二、三人しかいなかった。

展示されていたのは、谷川さんがつむいだ言葉と、谷川さんの詩から生まれた絵本の絵。
俳優による詩の朗読が、会場内に流れている。
小さな木の椅子が、点々と置かれていて、一冊ずつ絵本がのせられている。
手にとって読んでよし。
詞と曲が一緒になれば歌が生まれ、詩と絵がひとつになれば絵本がうまれるのだなと思う。

展示を見終わり、すべての絵本に目を通し、ショップに立ち寄ると、先客がいた。
白いワンピースに黒いブーツの、私から見れば、お嬢さんとよびたくなるような若い人。
私は、記念に集英社文庫の「二十億光年の孤独」を買った。表紙の色は、黒くて赤い。
谷川俊太郎が18歳までにつむいだ言葉の数々とその英訳が、本の中につまっている。

帰り道、案内板の矢印を逆にたどりながら、
てくてくてくてくてくてく…
今日は、くるくる電車旅じゃなくて、てくてく歩き旅だったな、と思う。
つぎに来るときは、駅からバスに乗ろう。
清須市には、『あしがるバス』という名の、すてきなコミュニティバスがあるらしい。

駅のホームのベンチに若い女性がすわっていた。白いワンピースに黒のブーツ。美術館で見かけた人だ。

(こんにちは。いい展覧会でしたね。)

心の中で話しかけ、同じベンチに少し離れてこしかけた。
電車が来た。彼女と私は、ちがう車両に乗りこんだ。





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