たやすく「理解」と言ってしまう危険
物事を学ぶとき、私たちは「理解」を大事にします。
「理解を深めよう」「理解度を確認しよう」
しかし、そもそも「理解」とはどういうことなのでしょうか?
「理解」ほど曖昧な日本語はない。
日本人は「理解する」という言葉をよく用います。
学校教育においても「理解する」という言葉は何か望ましいイメージとともに多用される印象が強いです。
しかし、日本語の「理解する」という言葉は曖昧すぎる。
テストが100点の子は、それらの問題を全部「理解」しているのか?
日本国憲法の条文を暗唱することができたら、憲法について「理解」していると言えるのか?
そもそも何をもって「理解」していると言えるのか?
本当に他人のことやこの世の中を「理解」できるのか?
「理解」は、曖昧なものを明快にするというイメージを持つ言葉であるはずなのに、教育の文脈ではこの言葉の定義自体が曖昧になっている。
日本語の「理解」という言葉はニュアンスの幅が広すぎて、漠然としているのです。
それに対して、英語には日本語の「理解する」にあたる言葉が複数存在します。
Weblioで検索してみたところ、研究社の新英和中辞典にはこう書いてあります。
1理解する 《★【類語】 understand は理解した結果の知識を強調する; comprehend はその理解に達するまでの心的過程を強調する; appreciate はあるものの真の価値を正しく理解・評価する》:
英語では「理解」のニュアンスを峻別し、それぞれに異なる言葉を用いています。
たやすく「理解」と呼ぶのは危険
このように、英語が「理解」のニュアンスに応じて言葉を使い分けているのに対して、日本語の「理解」では、これらが一緒くたになっている。
教師が子どもたちに日本国憲法の条文を「理解」させたいと考えるならば、何をもって「理解」とするのかを明確化しなければならないでしょう。
選択問題に正答すれば「理解」なのか。教科書の言葉を使って記述できれば理解なのか、と。
また、教師がテスト問題に正解した子どもに「よく理解しているな」と言ってしまうと、子どもはテストに正解できるようになることが「理解」だと思ってしまい、子どもたちはテスト準備以上の深い学びをしなくなる恐れがあります。
これだけ注意深く「理解」という言葉を用いている教育関係者は、日本にどのくらいいるのでしょうか。
子どもたちに求める学習の到達度は、教える内容や子ども一人一人によって様々だと思います。
しかし、当たり前ですが「理解」という言葉を「問題が解ける」とか「暗唱できる」というレベルで適用するのは実に危険だと思います。
先述のように、「理解」という言葉は現在の日本の教育現場では良い意味で用いられることが多いように感じるからです。
語句や解法の暗記、説明を見たり聞いたりすれば何のことかわかるということが「理解」だと思ってしまうと、それ以上の深い学びは生起しなくなってしまうかもしれないのです。
結局、何が「理解」なのか??
「じゃあ一体、何が「理解」なんだ。」
ということですよね。
僕個人の意見としては
「物事を自分自身の言葉に置き換えて、うまく表現することができるということ」
これが「理解」だと考えています。
ただし、自転車の乗り方などが典型ですが、言語化できない技術やパフォーマンスがあることも承知しています。(「理解」というよりは「習得」?)
今回は、知識や言説についての「理解」に焦点を絞ります。
ヴィゴツキーという心理学者は、言語には2つの種類があると考えました。
一つは、発話のために用いる「外言」という言語です。
もう一つは、思考のために用いるもので、発話を伴わない「内言」という言語です。
ヴィゴツキーは、コミュニケーションのために用いていた言語(外言)が、徐々に個人内で思考するために用いられる言語(内言)となっていくものだと考えたのです。
このことは、自分の頭の中にある言葉を豊かにして、それらを自在に運用できるようになることが、思考を磨くために重要であるということを示唆しています。
他人の言葉ではなく、自分の言葉によって、学んだことを表現しようとすること。
それこそが思考であり、この過程を経て初めて「理解」へと近づくことができるのではないでしょうか。
そのように考えると、もし子どもに物事を深く学んでもらうためには、子ども自身が思考し、「理解」に辿り着こうとしなければなりません。
子どもが、学んだことを自らの血肉としていくためにも、自分の頭で考えてもらえるように工夫することが大事なのではないでしょうか。
逆に言えば、どれだけ教師が教える内容を深く「理解」し、噛み砕いて説明したとしても、子ども本人が考えて納得してくれなければ、子ども本人は「理解」できないのではないか、ということです。
子どもが自分の頭や言葉を使って考えるような学びをつくること。この視点を大事にしていきたいところです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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