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今日はひとことも発したくない 目覚めを意識してすぐ、そう思った。酷く喉が痛む。唾を飲…
座敷と奥座敷を繋げた二十畳のスペースに、弔問客は入りきらなかった。縁側を解放し、廊下に…
家に戻ったのは、私と、ごく少数の親戚。そして加島の一団。叔母は加島に笑みを見せて挨拶を…
女性と少年は玄関に入り、戸を閉め、もう一度私に頭を下げた。 「お線香を……あげても、よ…
目覚めると、真子からのメッセージがスマートフォンに届いていた。夕べ電話をしたけれど、真…
アルコールを飛ばす目的で母校に足を運んだ。奈美の店からは一キロほど。自動販売機で買った…
ウイスキーでいい気分になった頃、客が数人やってきた。私と浩太はカウンター裏にある台所に移動し、そこで宴を続けた。 食事用のテーブルに、向かい合って座る。店内とは異なる匂い。浩太の家の匂いだ。懐かしくて、落ち着く。顔が勝手に、ますます緩んでいく。 「ああ……夢が現実になったわ」 「夢?」 「ママが店で辛口マシンガントークして、おっちゃんらが大笑いして、それを聞きながら浩太と酒を飲む。高校の時、大人になったらそういうのがしたいって思ってた」 「ちっせえ夢だな! まあ、叶っ
目が覚めて頭痛を自覚したのか、頭痛を自覚して目が覚めたのか。いずれにせよ、爽やかな朝と…
失笑して、ベッドに横になった。家を出て十二年が経過したのに、ベッドは同じ場所に置かれた…
子供用品の店は、平日だからかガラ空き。菜摘の家にはパズルがたくさんあったから、と兄は甥…
「おなかすいた!」 車に乗ってすぐ、子供達の空腹アピールが始まった。帰宅してひと息つく…
たまになんだから楽しみなさい、と姉に言い残し、母は孫二人とともに床についた。テレビの音…
兄が若干錆びついた栓抜きを持って戻り、赤ワインの栓を抜いた。勧められたけれど、やんわり…
結局兄は瓶を空に出来ず、四分の一ほど残った赤は私が飲んだ。水も大量に。グラスを洗いテーブルを拭き終えると、姉が、ぽつりと零した。 「道場に行かない?」 姉の目元を見て、私は、その心の内を理解した。兄も同じだったのか、無言のまま玄関へ向かった。 九月の半ば。夜風は涼しいと呼べる域を超えていて、アルコールで熱を帯びた体を一気に冷ましてくれる。家の裏手にある道場には、玄関を出て一分と経たずに到着。鍵を開け、ひっそりと寝静まっていた空間に明かりをともす。 「……まんまだ