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聴覚情報処理障害(APD)について。

聴力自体は問題はないのに、相手の話が聞き取れなくて悩んでいる人たちがいます。賑やかな場所で会話の内容が聞き取れなかったり、何度も聞き返してウザがられたり、よく聞き取れないまま適当に答えて怪訝な顔をされたり、聞いた内容をすぐ忘れてしまって叱られるという経験が人一倍多い場合、聴覚情報処理に問題があるかもしれません。
これらは以前は自閉症スペクトラム(ASD)の特性の一つとされていましたが、現在は聴覚情報処理障害(APD)という独立した障害として扱われています。ASDだけでなくADHD(注意欠陥多動性障害)ともよく併発するようです。
ADHDとASDの当事者である私もこのAPDがあります。APDがあるとどんな困り事があるのでしょうか?私の過去のエピソードをいくつか紹介したいと思います。

①言葉が遅かった

私が小さい頃、言葉が出るのが遅く3歳ぐらいまで意味の通じる言葉を発することができず、母曰く「発音が不明瞭で何が言いたいのかわからなかった」そうです。
耳から入ってくる情報を「言葉」として認識したり記憶したりすることに困難があったので、本を読む前の年齢では耳からの情報だけでは言葉を習得することが難しかったのかもしれません。
母にとって私は第一子なので私が殆ど言葉を発しないのを「こんなもんか」とのんびり構えていたようですが、既に大きな子供がいた伯母たちは「この子は大丈夫なの?」と随分心配していたそうです。
4歳で本を読むようになってからは言葉を覚えられるようになったようです。視覚情報の助けがあって耳からの情報を「言葉」として認識できるようになったのだと思います。

②授業中の先生の話が聞き取れなかった

先生の話をキーワードでなく一字一句ノートに書き留めないと何の話だったか忘れてしまうという話は以前の記事で取り上げましたが、そもそも先生の話が聞きとれなくて困ったことがよくありました。
APDの代表的な症状の一つに「カクテルパーティー効果が弱い」というものがあります。普通の人は雑音の中から目的の会話だけを聞き取ることができるのに対し、APDがあると人の会話が雑音の中に埋もれてしまい聞き取ることができません。
会社の飲み会のみならず、併発しているASD由来の聴覚過敏やADHDの集中の困難により40人学級の授業程度でも周囲の雑音に気をとられて先生の話を聞き逃してしまうのです。このため先生の指示内容が聞き取れず叱られたり級友にバカにされたりということがよくありました。
今も公立の多くの学校では教室に空調がなく夏は窓を開けてる所が多いと思いますが私の学校時代も同様でセミの声やら車の通る音やら外部からのノイズがダイレクトに入ってきて閉口したものです。

高校1年の時、授業中に先生から当てられた時のことです。やはり先生の話が聞き取れずボーっとしていたのが目についたのかもしれません。
先生「Luさん」
私「はい?」
先生「○○の、××の△△を答えて」
私「えっ、スミマセン。何ですか?」
先生「だから、○○の、××の△△」
私「えっ、わかりません」
周りの同級生「ふざけんなよ。ちゃんと人の話聞けよ」
そもそも先生が何を話しているのか聞き取れなかったのですが、同級生たちは私の授業態度が反抗的だと感じたのかもしれません。私はどう説明したらよいのかわからずパニックで泣いてしまいました。そのことがさらに同級生たちを苛立たせてしまったのです。

高校3年になって「一番前の席なら聞き取れる」ことにやっと気がついたのですが、APDがあることにもっと早く気づいていたら小学校の頃から席を一番前にしてもらえて、先生の話も理解できて、同級生たちから誤解されることもなかったかもしれません。

③賑やかな場所での会話を避けてしまう

飲み会で人の話が聞き取れないと、何となく飲み会自体を避けてしまいたくなることがあります。相手の話がよく聞きとれないままに適当に返事をすると全く頓珍漢な答えになっていて相手から変な顔をされてしまうのが怖いし、第一何の話をしているのかよくわからないので楽しくないのです。
さらに憂鬱なのは飲み会が終わった後、帰りの電車が同じ路線の人と一緒に帰るときです。別にその人が嫌いなわけではないのですが、車内で話しかけられても電車の音にかき消されて聞き取れないのでつい大声で聞き返してしまったりして周りの人の迷惑になってしまうのです。

人の話が聞き取れないと話をすることが面倒になり無口になってしまいます。以前、ネットで知り合った音楽ファンの人たちと一緒にあるバンドのライブに行ったときに、開演前に会場で流れる大音量の音楽でお互いの会話が聞き取れず開演までずっと黙っていたら、ライブ後に彼女たちから「Luさん、すごい大人しいよね。全然話さないし。ネットの印象と全然違うからビックリした」と言われたことがあります。
「あんな大音量で話なんかできるかい」と思ったものですが、大抵の人はそういう環境でも普通に会話ができるものなんですね。
そんなこともあって一人でライブに行くことが増えてしまいました。周りからは「人付き合いの悪い人」という印象を与えているかもしれません。

④外国語のリスニングに苦労する

私は長年の外国語学習者ですが、現在もリスニングにはとても苦労しています。母国語の日本語ですら聞き取りに苦労するのだから外国語のリスニングにも人一倍苦労するのは仕方のないことかもしれません。英検やTOEICでもリーディングが満点近く取れてもリスニングが半分ぐらいしか取れない、ということがよくありました。
ADHDもあるので「聞いている途中で注意力が切れてしまう」というのも点を落とす原因でしたがAPDに多い「早口が聞き取れない」「耳から聞いたことが記憶に定着しにくい」というのもリスニングには不利だと思います。
後者については聞いた内容を素早く映像化することで記憶に残すというテクニックで乗り切れますが最初から聞き取れないものはどうにもなりません。
私の学生時代には英語にリスニングの授業はなかったのですが、現在はリスニングを取り入れている学校が多いようですからAPD持ちの学生は苦労しているのではないでしょうか。
現在の私のリスニングの実力は「海外のニュースは7割ぐらい聞き取れるけど、洋画のセリフの理解度は2割以下」だと思います。考えてみたら日本語でも普段テレビドラマを字幕をつけて見てしまうので英語だとさらに下がって当たり前かもしれません。洋画を字幕なしで楽しめるまでの道のりはまだまだ遠いなあと感じます。

視覚情報を活用し、静かな環境に身を置く

APDを改善する方法というのは残念ながら今のところ見つかっていないので今後の研究を待ちたい所ですが、とりあえず対処法としては「賑やかな場所は極力避ける」「連絡は口頭よりもメール」「セミナーや講義は一番前に席をとる」などが挙げられます。ADHDを併発している人はADHDの治療をすることで聞き取り力が改善することもあるかもしれません。
今年は社外セミナーも会場開催ができずzoomやTeamsなどのウェブセミナーが多かったのですが、講義資料を公開したりセミナーの内容を動画で繰り返し聴けるものもあり個人的にはありがたいと思いました。今後デジタルトランスフォーメーション(←「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念)の発展がAPD当事者にとっても大きなメリットをもたらしてくれるのではないかと期待しています。

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