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LTR _Progressive/PathCode

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Lunatic tears 第5作目「Progressive/PathCode」
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2024年3月の記事一覧

LTRP2-5「Competing Contradictions」

 静かな湖畔の部屋で、PCの画面と格闘していた椎葉が一息ついたのは昼過ぎのことだった。
「やりやがった……」
と天井を仰ぐエンジニアの目の前には、新たに実装された学習データのコードが連なっている。
 夜中の間に緊急メンテナンスを行ったことは、午前中に知らされた。それ自体、元々保守担当ではない椎葉にとって、珍しいことではない。しかし、それに乗じて新しいデータも実装されていたことが、履歴を辿って判明し

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LTRP2-4「Pie In The Sky」

 ゲームのAIに人間が従う日、その見出しの記事がポータルサイトに出回ったのは、翌朝のことだった。
 破竹の勢いを見せるMMOの心臓部、自律型AI。それがついに、本格的に人間を天秤に掛け始める。AI戦国時代に人間とAIの関係の在り方を問う、経済雑誌の人気シリーズの第4弾はその文章から始まっていた。
 前半はEXCの売上高と収益構造がメインで、UACのEXCプロデューサーとエクシスの代表取締役がインタ

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LTRP2-3「Cheat Code」

 スタークがストーカーのようにアウロラに近寄った理由は、助けようとしたから?あの場を見る限り、そう思える部分は無い。疑問だけが流雫の脳を支配する。
「でも池袋で見たのは……」
「確かに強引だったとは、死ぬ前の日に言っていたよ。ただ、ああするしか無かったのも事実だ」
と椎葉は言う。
 アウロラのステータスもコーションだった。カテゴリはA6の105、それはAIへの疑念だった。この不可解なカテゴリの実装

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LTRP2-2「Yellow Caution」

 EXCは夜、小さな混乱を引き起こした。サービス再開から数時間後、突如専用SNSがフォーマットされたからだ。SNSはデータベースサーバの一部分で構成されているが、専用AIが巡回し、アドミニストレータAIに違反を報告しつつ、自動的に投稿を削除する流れだ。
 ゲームの運用には影響が出ていないのは幸いだった。担当はそれぞれの自宅からサーバにアクセスし、修復を試みる。
 結論から言えば、データはサーバに残

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LTRP2-1「Question And Distrust」

 朝方、キッチンに立つ流雫はフライパンを見つめながら、イヤフォンを耳に挿していた。
 蕎麦粉のクレープ、ガレット。流雫の実家が有るブルターニュ地方の郷土料理で、ナイフとフォークを使って口にする。このペンションの名物となっていて宿泊客からの評判も高く、毎朝焼くのが少年の日課だ。
 聞こえてくるのは音楽ではなく、フランス語。その相手は宿題を片付けながら
「お前も標的になったのか……」
と言い、頭を抱え

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