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Lunatic tears 1

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Lunatic tears 第1巻「Faust」
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記事一覧

LTR2-13「Gretchen」

 モノレールは天王洲アイルに着く。終点まで乗る予定だった2人は思い立って、そこから列車に乗り換えて何回目かの臨海副都心へ行こうと決めた。2人にとって、最早定番のデートエリアだった。
 1駅だけ東京臨海ラインに乗り、東京テレポート駅で降りる2人。雨は未だ残っているが、先刻よりは弱まっていた。
 行き先はアフロディーテキャッスル。特に買い物する用事も無いが、流雫は何故か妙に気に入っている。
 施設全体

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LTR2-12「Out Of Control」

 明日から7月だが、梅雨明けは未だ先の話らしい。そして、2日前の予報は朝から雨。しかも今夜から明日に掛けては、更に大雨になる予報も出ている。
 白いTシャツの上からネイビーのUVカットパーカーを羽織った流雫はバスに乗り、河月駅から列車に乗り換える。1通だけ、恋人からのメッセージに返事を打った後、ブルートゥースのイヤフォンから流れる音楽を聴きながら、特急のシートに身を預け、オッドアイが印象的な目を閉

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LTR2-11「Take A Sudden Turn」

 6月最後の金曜日。水曜日に始まった2日間の期末試験は最終日を迎えた。梅雨時期だが、今日は昨日までとは打って変わって晴れた。
 正午、ようやく最後の試験が終わった。午後の授業は無く、土日は休み。つまり2日半、休みが有る計算だ。とは云え、流雫にとってはこの休みにやることは普段と何も変わらない。
 それより、ここ数日の軽い頭痛は、普段使わない頭を使ったからだ、と流雫は思っている。ただ、それからも漸く解

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LTR2-10「Virtue Of Honor」

 次の日、澪は何時もより30分以上早く起きた。アラームは普段の時間通りにセットしていたが、その前に目が覚める。ただ、二度寝しようにも眠気が戻ってこない。5分ほど目を閉じて足掻いた澪は、しかし諦めてベッドから下りると通学の準備を始めた。
 半袖のセーラー服に袖を通し、鞄を持ってリビングへ下りる澪に、母の美雪が
「今日は早いわね」
と声を掛ける。
「何か、目が覚めちゃって。二度寝できなかった」
と言っ

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LTR2-9「Contract With The Devil」

 美桜の死は、一生背負うべき十字架。そう流雫は思っている。空港で狂ったように泣き叫んだ彼に突き刺さった残酷な現実が、やがて情報の海で彼と澪を引き寄せ、そして今この瞬間を迎えている。
 澪だけは、死なせるワケにはいかない。そのために、美桜が僕を生かしているのだ……とさえ思えた。
「……でも、これで少しは前に進むといいね」
澪は言う。流雫は頷く。
 ……銃を持つ、持たない。その選択は個々の自由だった。

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LTR2-8「Blot Pathetic」

 6月最初の日曜日、高速道路を走るシルバーメタリックのセダンの後部座席に座る澪は、目を閉じていた。生憎の雨だが、流雫と会う日に降ったのは、6回目の今回が初めてだった。
 澪は河月まで列車で行ったことが有るが、その時は快速で2時間ぐらい掛かった。今日は渋滞が無ければ1時間半ぐらいで着く、と地図アプリは表示していた。しかし、暇だった。1週間前のゲームフェスで気になったパズルRPGゲームが今日配信開始だ

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LTR2-7「Believe With Teardrop」

 あの災難から一夜明け、澪は普段通りに学校へ向かった。ホームルームの10分前に着くと、結奈と彩花が声を掛けてくる。
 昨日あの後、2人は池袋のファストフードの店でフライドポテトとコーラをつまみながら、2時間ぐらい喋っていたらしい。高校生の夜の出歩きは褒められたことではないが、かく言う自分も、流雫と会うと夜までいることが多い。昨日もそうだった。
 ただ、その災難を全て吹き飛ばすだけの幸せが、半日以上

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LTR2-6「Crossing Lips In Silenth」

 流雫は空に向かって手を伸ばす、あの渋谷の夜のように。あの時、彼が何を掴みたかったのか、澪は今でも判らない。そして、今その先に見ているものが何なのかも。
 ただ、掴めない無力感にだけは、苛まれてほしくなかった。
 「……今日、楽しかった?何か、水を差すようなことばっかりで……」
澪は問うた。自然な形で、話題を変えたかった。
 結奈や彩花と一緒のダブルデートとは云え、あまり流雫と話していなかったこと

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LTR2-5「Call Me Blue」

 ゲームフェスは当然ながら、急遽打ち切りとなった。警察によってジャンボメッセそのものが封鎖され、行き場を失った人たちが会場を後にする。
 流雫と澪は警察車両に乗せられて臨海署へと向かった。結奈と彩花は台場にいて、後で合流する手筈だった。
 相変わらず殺風景な取調室に先に通された2人より、後から入ってくるなり
「また会ったね。今回も無事そうで何よりだ」
と言ったのは、アフロディーテキャッスルの件で2

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LTR2-4「Suicide Superstar」

 連休が終わると、流雫も澪も結奈も彩花も、それぞれ普通の日常に戻る。あれからの数日間、流雫と澪は相変わらずだったが、あの連休最後の騒動を互いに話題に出すことは無かった。
 メッセンジャーアプリで文字を交わすと、また会いたいと思う。距離が距離だけに仕方ないが、それでも会いたい、一緒に同じ場所にいたい。流雫には澪が、澪には流雫が、それぞれの中心にいた。
 2人は、互いに依存することで成り立っていた。そ

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LTR2-3「Close Call」

 翌日。前の日、澪が流雫とデートした余韻は、夢にも引き継がれていた。
 アフロディーテキャッスルの前で待ち合わせて
「ルナ?あたしはミオ。はじめましてっ!」
と微笑んでいた。それは、あんな事件が起きなければ叶っていた、彼女の願望でもあった。
 目覚まし時計の無機質な電子音で現実に引き戻され、澪は朝から憂鬱になる。望む形の初デートを夢で見ても……。ただ、夢でさえ彼と会えるのだから、それはそれで悪くな

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LTR2-2「Holiday For Abnormal Lovers」

 巷は大型連休に突入した。流雫が居候しているペンション、ユノディエールは連日満室で、彼も朝からガレットを焼き続けている。蕎麦粉を使ったクレープのため、蕎麦アレルギーの持ち主には禁物だが、そう云う事情でもない限りオーダーされると云うのは嬉しい悲鳴だ。
 それが終わると、本来なら客室の掃除だ。それが最も大変なのだが、余計なことに頭と気を回さなくて済む。しかし、今日は最後の1枚を焼き上げるとすぐにディー

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LTR2-1「Not Accepted」

 新学期から2週間が経とうとしていた。あの夜、渋谷の展望台で一線を越えた宇奈月流雫と室堂澪は、恋人同士となっても相変わらずの日々を過ごしていた。
 ……思えば、流雫がかつての彼女、欅平美桜から告白されたのは、ちょうど1年前のことだった。あれからもう1年経ったのだ。その時は美桜と「別れ」、失意の最中に澪と出逢い……そして半年後に恋人同士になるなど、全く想像もしていなかった。美桜と「別れ」なければ、流

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LTR1-15「Faust」

 フランスでの2週間は、流雫にとっては面白かった。家族とはゆっくり過ごせたし、気晴らしに出掛けたりもした。ル・マンのユノディエールと云うコミューンに建つペンションが母親の実家で、其処に両親と3人で顔を出したりもした。
 レンヌの家では、今日本で何が起きているのか、両親に改めて細かく説明する必要が有った。そして、トーキョーアタックで辛うじて難を逃れたことにも触れなければならなかった。その時だけは、気

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