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Iくんとの忘れられない4年間⑤(終)

 内定が出たあとの私は少し余裕が出て、サークルに久しぶりに顔を出すことにした。Iくんは別れた後も友達ではあって、友達として私の内定をとても喜んでくれた。別れた後も彼に彼女はいなかったし、私にも彼氏はいなかった。

 大学4年の夏。別れた後も、やっぱり私は彼を忘れられず。だめもとでサシ飲みに誘ってみたら「いいよ」とのことで、2人で飲みに行った。2人で過ごす時間はとても楽しかった。飲んだ後はカラオケに行った。付き合っているときもよく2人でカラオケに行っていたな、そんなことをふと思った。

 気づいたら終電が近くなっていて、カラオケを慌てて出た。「終電に乗らなくちゃ」と小走りな私にかれはいった。「ーーもう少しいっしょにいたい」と。

 そんなことを言われては、断れないじゃないか。

 友達の家に泊まると嘘をついて、彼とラブホテルへ行った。そうなることはわかっていた。彼と、久しぶりに身体を重ねた。その間はまるで付き合っている頃のように優しくて、温かくて、幸せだった。だからこそ、ことが終わったときに、感じたことのない虚無感、喪失感が一気に押し寄せた。昔は、とっても幸せだったこの時間が、今は辛かった。

「…私はまだあなたのことが好きだよ」

「俺は…よくわからない。好きだけど、昔と違う」

「それなら。他に好きな人がいないなら、もう一度付き合ってみて欲しい」

「そんな中途半端な状態でつきあうことはできない」

 そんな話をしたのを覚えている。悲しいピロートークだ。私はまたフラれたのだ。でも彼自身も自分の気持ちが自分でわかっていないようだった。

 その年のサークル合宿に、私は参加した。最初で最後の合宿。田舎のバンガローを借りて、一晩中シャッターを開放して、星空の写真を撮るというのがテーマだった。バンガローで偶然彼と2人きりになったとき、彼は「なんか昔みたいでドキドキするね」と言い始めた。いったい何なんだろう、昔とは違うとか言ってふったくせに。ズルズルと引きずってしまうではないか。

 ただ、転機が訪れた。なんと私に気になる人ができたのだ。彼以外の男性に久しぶりにときめいて、ゆっくりと彼のことは忘れていった。

 そして、私は社会人になり、東京へ引っ越した。IくんもIくんで、私が社会人になったあと、サークルの後輩と付き合うようになった。FacebookでつながっていたのでIくんの近況はよく知っていた。彼女と一緒に旅行に行った、彼女との記念日だった、、、そんな投稿を見るたびになんだかヘコむ私がいた。

 そして。時は流れ。

 社会人3年目の秋、その日は突然訪れた。日曜日だった、部屋でぼーっとしていた私に、高校時代からの親友、それこそIくんとつきあうときにキューピッドしてくれていたKちゃんから電話が。

「Luna、今テレビ見れる?!いいから、つけて」

 血相を変えたような声色に、慌ててテレビをつけると、全国ニュースが流れていた。地元で起きた大きな交通事故。そして私は信じられないものを目撃した。

 死亡者のテロップに、Iくんと同姓同名の名前が出てきたのだ。しかも、住所(市区町村)までいっしょだ。

 いやいやいや嘘嘘嘘、同姓同名なだけだよね、でも同じ市区町村の中でこんな名前の人もう1人いるかな。咄嗟にIくんの親友だったSくんが頭に浮かんできて、携帯電話に電話をかけた。

「Lunaさん久しぶり。俺もニュース見て驚いてる。事実確認するから、何かわかったらまたLINEで連絡する」

 そのあと、私はIくんの携帯に電話をかけた。プルルルルと呼び出すけれど、繋がらない。何かの冗談だと思いたかった。そうこうしているうちにSくんから連絡が来た。事故の被害者は、やはりIくん本人だったと。

 通夜と告別式の日程を聞いて、有休をとって、実家へ帰った。私の母もIくんのことがお気に入りで大好きだったので、大きなショックを受けていた。

 はるか昔、私たちに調理室を貸してくれた担任の先生と連絡をとって、先生と一緒にお通夜に参列した。泣いて泣いて泣いて、立っていられなかった。彼の最後の顔はとても穏やかだった。せめて苦しまないで天国へ行けたのならいいなと思った。

 告別式。最後に棺にお花を入れたとき、こっそり彼の頬に触れた。とても冷たかった。彼の肉体はここにまだあるけれど、彼自身は遠いところに行ってしまったのだな、と、すとんと受け入れることができた。

 今、私はIくんにとても感謝している。

 私に、愛される喜びを教えてくれてありがとう。愛する喜びを教えてくれてありがとう。あなたの24年間の人生のうち、キラキラ輝く青春の4年間のパートナーに私を選んでくれたこと、とても誇りに思っているよ。

 残された私は、Iくんに恥じないように。そしてIくんが見られなかったこの世界の未来をIくんの分も見てから、天国で再会できたら嬉しいな。

 長くなりましたが、Iくんとのお話はここで終わり。まだまだ私の恋愛は続く…

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