こちら、光学設計部_第二回【LUMIX S PRO 24-70mm F2.8】
皆さん、こんにちは。
LUMIXのレンズについて深掘りしていく連載、「こちら、光学設計部」です。
「こちら、光学設計部」では、私たち光学設計部がレンズ設計の解説や特徴について、カタログやwebサイトでは読めないこだわりや想いについて紹介していきます。
これからレンズを検討される方には、ぜひLUMIXのレンズの設計思想を知って頂き、既にお持ちの方は、撮影で楽しんで頂いている優れた描写の裏側にある、知られざるこだわりや思いをお楽しみください。
開発者による専門用語が飛び交うレンズ解説記事です。読めばあなたもレンズ沼の深淵を覗くことに。
第二回目はLUMIX S PRO 24-70mm F2.8、担当は栗岡です。
フルサイズミラーレスの大口径標準ズームレンズ
パナソニックのフルサイズミラーレスとしては、第2弾となる開発になります。
大口径ズームレンズは、メーカー各社が力を入れる定番レンズで、今のミラーレス時代でも、様々なマウントで採用される仕様です。そのため、このあたりの仕様のレンズを手にすれば、各社のこだわりポイントが見て取れます。
カタログやウェブに載せる情報にポートレートやスナップなどの作例があれば人物の撮影を配慮し、そこに画質を謳えば解像感を高める工夫が入り、またオートフォーカスが語られると高いフォーカス精度や追従性等を備えた商品づくりを垣間見ることができます。
LUMIXの目指す標準ズームレンズ
持ち出す機会が多いであろう標準ズームレンズにおいて求められることは、様々なシーンで高品質な写真と動画を撮影できるレンズであるべきだと考えました。
そこで、この大口径標準ズームレンズの開発では、光学性能のうち、解像、ボケ、色収差への配慮を重視し、静止画・動画への対応も積極的に盛り込む欲張った仕様を目指すことにいたしました。
さらに、動画撮影にも配慮しており、滑らかで素早いフォーカスや静音性を体感いただけます。
Certified by LEICAを目指して
これらを実現するためには、光学設計を行う際に贅沢な部品を惜しみなく採用しました。そのおかげで、優れた解像力や色再現性、ボケ表現など、写真や映像の表現力を最大限に引き出すことができています。
また、高性能なレンズ製品に認定される「Certified by LEICA」も目標に掲げ、本レンズにおいても、その認定を受けています。
ライカの厳しい審査基準をクリアすることは、大口径ズームレンズの優れた性能と品質を示すものです。
最高の描写を支える光学技術
光学設計で意図したポイントを3つ挙げていきます。
ただし、高性能をひとつひとつの部品を個別に分類して語ることは本来難しいため、技術的な勘所として述べさせていただきます。
と申しますのも、光学設計と呼ばれる設計の性質は、製品をイメージした設計解を数百のパラメータを泥臭く試行錯誤しながらコントロールして成り立たせます。
パラメータの一例として、単レンズの一つの面の曲率だけを取り上げても、複数の性能に影響を及ぼしあいます。光学設計者は、レンズに関わる様々な条件(部品仕様・組み立て仕様・目標性能など)を開発チームで議論し、実際の設計に盛り込みながら設計解を洗練させて、最適な解を造り上げていきます。
このような議論を経て、完成した本レンズの技術的なポイントは、以下となります。
a.色収差を高度に抑えるガラス材料の配置
本レンズでは、色収差を高度に抑えるために、4枚のEDレンズ※を採用しています。EDレンズは、EDガラスで作られるレンズ素子で、光がレンズを通過する際に生じる青側の色収差をキャンセルする効果を持ちます。
このEDレンズを光学系の中心付近へ集中的に配置することで、標準ズームのワイド端からテレ端まで色収差を効果的に抑えています。
色収差の改善は、いたずらにEDレンズを使用するだけで成り立つわけではありません。ズームすることで変化する色収差の影響をバランスさせるために、上手くキャンセルできる箇所へEDレンズを配置しています。
また、色収差は色のにじみのみならず、解像感にも影響します。カラーセンサーでは、コントラストがRGBカラーの各色に振り分けられますが、この際に色収差が少ないほどRGB振り分け後の像のまとまりが良くなり、解像感が高められます。
EDレンズの素材となるEDガラスは、ガラス材料の中で比較的柔らかい材料であるため、レンズ素子への加工が難しいとされます。こういったところも、EDレンズを使う際に光学設計者はよく考えなければなりません。
b. フォーカス構成
本レンズでは、フォーカス時に移動するレンズを2組用いるダブルフォーカス方式を採っています。この方式の効果は、被写体位置が無限遠から近接に変化しても、性能を高められることにあります。
もっとも、フォーカス方式を考慮する際の性能にもいろいろあって、たとえば、フォーカスの速度、解像、撮影距離の短縮などありますが、本レンズでは、特に解像と速度を向上させる意図を入れております。
フォーカシング動作は、ピントが合う距離を変えることにあります。しかし、通常のシングル方式で、大口径ズームを設計すると、近くの被写体へピントを寄せる際に、周辺までくっきり写し出すために必要な像面の平坦性※を維持するのが難しくなります。つまり、ピント移動と像面の平坦性を両立するのが難しくなります。
また、像面の平坦性はボケにも関係します。ピントを合わせたい主被写体はしっかり写し、主被写体と異なる距離にあるものを丁寧にぼかしたメリハリのある撮影がしたくなることがあると思います。像面の平坦性が高いと、主被写体と同じ距離のものはピントが揃い、異なる距離のものは、距離の差と関係してボケてくれるため、このような撮影がしやすくなります。
今回はダブルフォーカス方式を採用したため、これら2つの作用「ピント移動」と「像面の平坦性維持」の両立を高いレベルで図れました。
さらに本レンズでは、動画品位に関わるブリージングへの配慮もしております。ブリージングというのは、フォーカスレンズの移動によって、レンズを通った像のサイズが変化する現象のことです。技術的には、光の到達位置を揃えることが求められます。こちらもダブルフォーカスの持つ高い収差補正能力を活かし、ブリージング抑制による撮影の品位を高めることができました。
ダブルフォーカスのメリットは他にもあって、フォーカスレンズを2つに分けることは、一つ一つのレンズを軽くできます。
軽量化により、フォーカス動作も早くなって被写体を追いかけやすくなり、連続的に被写体へのピント合わせしたスチル撮影や、動画撮影でも強みを発揮します。
さらに、レンズを動かす駆動部(アクチュエーター)も小型にできて良いことづくめです。
ただ、ダブルフォーカスにも、弱点があります。複数の部品を同期させて動かすには、高速でお互いの位置を把握して、意図通りに移動させなければなりません。さまざまな撮影条件で性能を引き出すため、本レンズでは電子制御で2つのレンズを連動制御しております。
この連動制御技術は、LUMIXの得意な電子制御と光学を融合した成果のたまもので、マイクロフォーサーズで培った技術をフルサイズに展開・拡張して実装しています。
c. 高性能化を追求したレンズ構成
また、本レンズは、性能を高めるために7成分ズームを採用し、ズーム動作時に7つのレンズ群が移動します。
移動するレンズ群を分類するために、光学設計者は各レンズ群の焦点距離を正(+)、負(ー)、ノンパワー(0)と区分しますが、本レンズでは、正負正正負負正の構成を採っております。
自社のマイクロフォーサーズ用のレンズでは正負正負正の5成分構成ですが、2つも群を増やし、光学系として大幅に進化しております。
フルサイズのフォーマットでは、マイクロフォーサーズと比べて、同じ近距離でも、フォーマットが大きい分だけ、性能確保が難しくなります。高性能化を求める際には、その分の工夫をいれます。
5成分から7成分に増えた理由の一つは、b.で述べましたように、主にフォーカス動作用としてレンズ群を一つ増やしています。さらにもう一つ増えているのは、性能向上への挑戦です。
7成分中に正正と正のレンズ群が2つ並んでいる箇所があります。(わかりますか?)
この箇所の分割が収差補正に効果があるのは既知でしたが、モノづくりする上で性能への影響が大きく、製造にも困難を伴います。
冒頭、数百のパラメータが性能へ影響すると述べましたが、トップクラスの影響度です。シミュレーションや試作を重ね機構設計や工法設計、生産工場とも連携することで完成度が高まり、無事に商品化することができました。
設計者からみなさんへ
レンズの設計は、バリエーションが様々あります。
その中からどういった設計解を導き出すのか。その視点の一つに「クリエイターに寄り添う」というものがLUMIXにはあります。
実際使われる方の意見を取り入れ、今回述べたようなこだわりを入れて作り上げたのがこのレンズです。
いわゆる大三元の標準ズーム。王道仕様なので、既にお持ちの方も沢山いらっしゃると思います。そのような方も、これから手に取ってみようという方も、ぜひLUMIX S PRO 24-70mm F2.8で撮影してみてください
最後に
LUMIX S PRO 24-70mm F2.8の光学設計についての解説でした。
既に本レンズをお持ちの方は、今一度本稿で紹介いたしました描写へのこだわりを撮影されるときに意識して頂ければ幸いです。
まだお持ちでいない方は、是非一度手に取ってみてください。
今後もLUMIXのこだわりが詰まったレンズを紹介していきます。
まだまだ語りたいレンズはたくさんあります!次回もお楽しみに!
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