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こちら、光学設計部_第四回【LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.】

皆さん、こんにちは。

LUMIXのレンズについて深掘りしていく連載、「こちら、光学設計部」です。

「こちら、光学設計部」では、私たち光学設計部がレンズ設計の解説や特徴について、カタログやwebサイトでは読めないこだわりや想いについて紹介していきます。

これからレンズを検討される方には、ぜひLUMIXのレンズの設計思想を知って頂き、既にお持ちの方は、撮影で楽しんで頂いている優れた描写の裏側にある、知られざるこだわりや思いをお楽しみください。

開発者による専門用語が飛び交うレンズ解説記事です。読めばあなたもレンズ沼の深淵を覗くことに。

第四回目は「LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」、担当は北田です。


S PROレンズとSレンズ

これまでに「こちら、光学設計部」ではS PROレンズを取り上げてきましたが、今回は連載初のSレンズということで、まずはSレンズについて解説します。

LUMIXはS PROレンズとSレンズの2ライン展開をしており、S PROレンズはLUMIX独自の厳しいS PROレンズ基準に則り、企画→設計開発→製造されるレンズです。

Sレンズは、高い光学性能に加え、機動性やユーザビリティも重視して開発されているレンズになります。

超広角20mmスタートのLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6や、描写性・サイズ・操作性などを統一したF1.8単焦点シリーズなどがラインナップされています。

Sレンズが目指す望遠ズームレンズとは

70-300mm開発時、Sレンズの望遠ズームレンズが目指すべきところを、商品企画部門と議論を重ね、次の3点を開発のコンセプトとしました。

1. ズーム全域で優れた描写性能と高品位なボケ味
2. 新たな映像表現を生み出す望遠マクロ機能
3. 撮影環境を選ばない機動力と優れた操作性

これらを実現することにより「焦点距離300mmの望遠を活かした鉄道や航空機の撮影」、「ワーキングディスタンスの長い望遠マクロ機能を活かした花や昆虫の撮影」などを、被写体に近づかなくても撮影していただくことができます。

ここでは、光学設計が大きく影響する1、2について解説します。

ズーム全域で優れた解像性能と高品位なボケ味

下図は、S-R70-300のレンズ構成図です。

物体側から順番に、「正負正正負正負」の7群ズーム構成を採用し、ズーミング時の収差変動を高度に補正することで、ズーム全域において、高い描写性能を実現しています。

レンズ構成は11群17枚でUEDレンズ1枚、EDレンズ2枚を適所に配置することで、望遠ズームレンズでは大きくなりやすい色収差を抑制しています。

レンズ構成図をご覧いただくとわかるように、LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.は非球面レンズを使用しておりません。

一般的に、非球面レンズの枚数を増やすと小型化や高性能化を実現しやすい反面、玉ボケの中に年輪のような模様が現れる輪線ボケが出やすくなります。

当社は非球面レンズ加工の高い技術を有しており、輪線を極力目立たないようにはできますが、特殊な加工法なのでコストが高くなります。そこで、お求めやすい価格で輪線のない綺麗なボケをお楽しみいただけるよう、非球面レンズを使用しない光学系としています。

また、ズーム全域において、球面収差を適切にコントロールした光学設計を実施することで、二線ボケを抑えた柔らかなボケを実現しています。下図は本レンズで撮影した玉ボケ写真です。輪線のない綺麗なボケとなっています。

新たな映像表現を生み出す望遠マクロ機能

焦点距離300mmで撮影倍率0.5倍(以降、ハーフマクロ)にすると、無限遠から最短撮影距離で移動するフォーカスの移動量(以降、フォーカスストローク)が大きくなり、フォーカシング時の収差変動が大きくなります。

ズーミング時の各レンズ群の移動軌跡をお見せすることはできませんが、フォーカスストロークを確保するために、フォーカス群の後ろのレンズ群である6群の移動軌跡を工夫し、また、フォーカス群の後ろに正、負のパワーを持つ群を配置し、フォーカシング時の収差変動を抑制しています。

大きなフォーカスストロークでも高速・高精度にオートフォーカスができるようにフォーカス群を構成するレンズ玉の重量を軽くする必要がありました。

LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.の光学設計においては、レンズの外径が小さいレンズ群をフォーカス群とし、レンズ玉のガラス材料についても、比重の軽いものを選択することで、軽量化を実現しています。

こちらの写真は、300mmハーフマクロで撮影したどんぐりです。背景を大きくぼかし、主題を際立たせた作品を撮ることができます。

ここまで、LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.の光学設計についてお話しました。

交換レンズの開発は光学設計だけではなく、機構設計・アクチュエータ設計・制御設計・電気設計などの技術分野が関わっています。

一例として、LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.の機構設計の取り組みについてもご紹介していきましょう。

本レンズの光学設計では、ズーム全域で優れた描写性能を実現するため、7成分ズーム構成を採用しており、ズーミングにより5つのレンズ群がカム機構によって光軸方向に移動します。

そのため、合計17本ものカム溝を配置する必要が生じ、限られたスペースの中で全てのカム溝を配置し、かつズームリングの操作性を良くすることが非常に困難でした。

光学設計者と機構設計者のシナジーにより、各レンズ群のズーム移動軌跡を0.01mm単位で最適設計することで、計17本ものカム溝を高密度にレイアウトしたことにより、多成分のレンズ駆動とズーム操作時の高品位な感触との両立を実現しています。

下図は、本レンズのカム筒の鳥観図です。カム溝が複雑に配置されていることがおわかりいただけると思います。すべて矢印で示していませんが、くり抜かれている分はすべてカム溝です。

カム筒鳥瞰図

カタログには表れない設計者のこだわり

交換レンズには、カタログには表れない性能があります。代表的なものだと「ボケ味」もその一つです。

LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.は、「光芒」にもこだわりましたので、そのことについて解説したいと思います。

光芒とは、絞りを絞って点光源を撮影した際に、光源の周りに出現する放射状の線のことで、絞り羽根の回折現象によって発生するので、絞り羽根の形状が重要です。

絞り羽根の形状は、小絞り時の玉ボケの形状にも影響しますので、本レンズでは、美しい玉ボケと印象的な光芒が両立するように、絞り羽根の形状を工夫しています。

下図は、絞り羽根を正面から見た図です。オレンジで示す部分が絞り羽根1枚を指しており、それが11枚重なり合っています。

11枚羽根 円形虹彩絞り

こちらの写真は、千里川の土手から撮影した伊丹空港の写真です。印象的な光芒が表現できているかと思います。

千里川土手から撮影した伊丹空港

最後に

LUMIX Sシリーズの望遠ズームレンズ、LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.の光学設計についての解説でした。

既に本レンズをお持ちの方は、今一度、優れた描写性能、柔らかなボケ味や自然で印象的な描写を楽しんでいただけられたら幸いです。

また、望遠レンズとしては珍しいハーフマクロ機能を活用した植物や昆虫の撮影や、光芒を活用した夜景など幅広いシーンに、ぜひ使っていただきたいと思います。

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