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【Vol.10】写真家 豊田慶記氏が聞く、LUMIX S5II「深堀り」開発者インタビュー

写真家 豊田慶記氏によるLUMIX S5II開発チームとのロングインタビュー。全12回の連載を予定しています。

今回は「放熱性と空冷ファン、EVF、デザイン」についてのインタビューです。

▼前回の記事はこちらから!

・聞き手:豊田慶記

・開発チーム(敬称略)
開発リーダー :中村光崇
デザイン :北出克宏
外装設計 :金田憲和
AF開発:福川浩平
AF開発:大神智洋
画質設計:栃尾貴之

ーー: 
放熱性について、非常に興味深いと言いますか、想像を超えた位置に放熱構造を採用していますね。S5IIの特徴のひとつでもあるかと思います。この位置となった理由を教えて下さい。 
 
金田: 
カメラの2大熱源は撮像センサーとメイン基板上のエンジンです。センサーが正面側に配置され、その後ろにメイン基板が配置されます。 
S1HやGH6を見ていただくと、背面にファンや放熱フィンを配置させているので、近くにあるメイン基板は放熱しやすい一方で、遠くにあるセンサーは少し放熱しにくいです。結果として放熱に多くのスペースを要し、セットサイズが大きくなってしまいます。これらの機種では製品コンセプトとしてこの大きさを許容できましたが、小型サイズの維持を必須とするS5IIにおいてはこの方式を採用することができません。そこでセンサーもメイン基板も効率よく放熱させるために、最短経路で放熱しようと検討した結果がペンタ部分への配置でした。 
 
ーー: 
ボディに開口部を設けていることから、防塵・防滴性の観点からは不利に感じてしまいますが、S5と比べてどうなっているのでしょうか? 
 
金田: 
ファンよりも奥の場所できっちりとシーリングしているので問題ありません。放熱部は内部に直接風を送っているのではなく、熱だけを引っ張ってきて冷やしているということです。ファンそのものも防塵・防滴対応のファンを採用していますので、S5と比べて防塵・防滴性能に遜色はありません。 
 
ーー: 
ファインダー部のスリットを横から観察すると、向こう側の光が見えることに驚きがあります。 
これだけの開口面積があると雨天などでは撮影姿勢によっては放熱部に水が溜まってしまうのでは?という心配をしています。 
 
金田: 
放熱部の内部についてですが、底面が排熱窓の開口部と同じ高さになっているので、入った水は溜まることなく排水されます。放熱フィンも壁ではなく剣山が立っているような形状なので、水の滞留も起きにくいです。ですから安心してご使用ください。 
 
ーー: 
S5IIの開口部のデザインはパッと見では主張が少なく、初めてS5IIに触れた時には指摘されるまでは穴が空いていると気付きませんでした。ですが、観察してみると戦闘機やF1マシンのルーバーのようなデザインで格好良く見えて好きです。 
 
北出: 
スチルのユーザーにとってはカメラに開口部があることを心良く思わない方もいらっしゃいますので、スリットの角度を工夫したりダイヤルで隠すなどして、極力目立たないようにデザインしています。また吸気口の桟(さん)を僅かに斜めにしつつ、根本側を面取りすることで、正面から見た際の吸気口の存在感を減らす工夫をしています。 
非常に細かな部分ですが、細かく立体感を付けていますので、遠くから見た時には存在感が薄く、近付いて初めてわかるような造形にしています。 

ーー: 
開口部と言えば、ファンの音量が気になりませんでした。 
 
中村: 
マイクとの距離が近いので、動作音はもちろん振動などのノイズを拾う可能性がありますので静音性には配慮しています。通常の撮影シーンではファン動作モードが標準でもファンの風切り音は気になることは無いかと思いますが、音にシビアなシーンでは低速もしくはOFFで利用していただくなど、適宜設定を変えてお使い下さい。 
 
ーー: 
カメラの主要な発熱源として、撮像センサーとメイン基板上のエンジンがある、という話がありました。特にボディ内手ブレ補正機構を採用する機種では発熱源がユラユラと動くことになるので、その熱をどうやって効率的に移動させるか?について頭を悩ませたのでは?と思いますし、過去にはそういった話を何度か取材先で聞きました。S5IIではどのようにしたのでしょうか。 
 
金田: 
仰る通り、常に動いているセンサー部に対して放熱部材を取り付けることはボディ内手振れ補正の動きを阻害することになるので、御法度とされてきました。 
しかし、今回は小型サイズで放熱しきるために、手振れ補正の動きに影響のない範囲でセンサー部に直接放熱部材を接触させています。できるだけ動きの邪魔をしないように、素材や形状にはかなり気をつかっています。 
 
ーー: 
熱伝導が高く柔軟性がある素材というと候補は限られると思います。繊細なバランスで弛ませたり、蛇腹のように折りを設けることで収縮性のある構造としたり、層構造の厚みを工夫したり、と様々な手段や工夫があると想像しますが、最終的な採用に至るまでには相当な試行錯誤があったと思います。 
 
金田: 
この部分についてはS5IIの開発がスタートする以前から要素開発として研究をしていました。やっとのことで原理試作が出来て「S5IIに採用するぞ」となってからも商品に落とし込むまでには紆余曲折があり、熱伝導部材の長さ・幅・形状・層構成や放熱フィンの形状・素材についてチューニングを何度も繰り返しました。目標の放熱性能を実現出来た時には「ようやくここまで来たか」と感慨深かったです。 

(続きます)

▼次回の記事はこちらから!(2023年5月4日より公開)

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