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モネの夕空の下で

30歳になったらどんな扉も開けられるようになった。貞操観念の欠落とコミュニケーション力の向上は比例していることにも気づいて、歳を重ねるのもいいかもしれない、と地下と地上を結ぶ電車の中でぼんやり思った。

新宿、六本木、上野、五反田、いくつかのそのための空間。肌の触れ合いほど満ち足りる行為はない。どこまでも頭の中を空っぽにできる。そして最後にやってくるのは圧倒的虚無感。




「わたし、何やってんだろ」
そう感じて独り笑いした時が、いちばん生きていることを実感する。だってときどき自分がどこにいるのかわからなくなる。現実は相手の反応を気にしてしまうし、画面の中は本音なんて書けたもんじゃない。呼吸ができなくなる前に無理矢理でも引きずり出さないとわたしは消えてしまう。

耳元では寺尾紗穂の富士山。涙をこぼす秋がまたやってくるのね。モネの絵のような夕空の下を歩きながらあの日々を懐かしむ。

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