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明日を包んで東京

溢れるほどの水を注いでいるのにコップが満たされない。これが年齢のせいだと云うのなら、わたしはこの先どうなってしまうのだろう。



昔みたドラマの東京は宝石よりも美しいものだった。明かりが灯るビル街。化粧を直してヒールを鳴らす。待ち合わせ場所にはスーツの男性。手をつないでおしゃれなお店に。おつかれと言い合ってビールで乾杯。そんな大人になることが夢だった。だから18で地元を出た。

だけど現実は私服勤務で、化粧をしない日の方が多くて、靴はぺたんこで、街は若者で溢れていて。スーツの男性と話す機会なんて普通に生きていたらない。日一日と老いてゆく。

そんな時、あの頃の私が顔を出して口にする。「それでいいの?あっという間におばさんになるよ?誰からも相手にされなくなるよ?」


頭は面影を覚えることを放棄した。だからカレンダーの星マークを数えないと思い出せない。今読んでいる本に出てきた「貞操観念」と言う言葉の意味を改めて調べる。『肉体的な純潔を守らなければならないという考え方』らしい。6つの星がちっとも光らないことに嗤う。



あと先を考える日はとうに過ぎ去った。どうにもならなくなったら消えてしまえばいい。人間に生まれてよかったことは自分次第で明日を決められること。身を整えて電車に飛び乗る。

考えたくて感じることをやめたくなくて、生き急ぐ自分が好きなのだ、とどのつまり。

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