見出し画像

#93 誰かに好かれるということ

ラジオばかり聴いていた頃の話。
洋邦問わず歌詞を調べたりMVを見るのも好きで、たまに声とルックスのイメージがまるで違うアーティストに出会って1人で混乱したりしていた。

ある日すごい歌を聴いた。

「ずっと好きだったんだぜ。相変わらずきれいだな。ほんと好きだったんだぜ」

ひゃぁ言っちゃったー!と恥ずかしくなるような
自分が誰かにそう言われてドキッとするような。

わたしは当時16歳だったのだ。
好きな人なんていなかった。強いて言えば、推しのピアニストがいたくらい。誰かにそんなことを言ってもらいたかったのかもしれない。

そこからわたしは高校を卒業し、大学生になり、社会人になった。
人並みに恋もしたし、失恋もした。
今はもう結婚している。

35歳になった今、久しぶりにこの曲が急に頭に降ってきてALEXA にかけてもらった。ちょっとニヤニヤした。なんでかわからないけど。

アメリカでは好きな人に「好きです、付き合ってください」とはあまり言わないのだそうだ。食事やデートに誘って、それが何度か続いて周囲からも公認の仲になっていくと「俺たち付き合ってるよな?」となるらしい。え、それ不安じゃない?と思ったけれど言ったから別れないわけでもないか。言葉にしてしまうと決定的になってしまうから、あえてその言葉を相手に渡さないのか。


この曲を歌う男性は恐らくもういい歳なのだ。でもまだ独身かもしれない。
10年ぶりに同級生と集まった時、当時好きだった女性が来ていて
しかも胸がときめく程きれいだった。
それで思わず「俺さ、あの時からずっと好きだったんだぜ。言わなかっただけで」と独りごちている。「なぁ、俺が好きだってことくらい気づいていただろ?」と。

今のわたしが聴けば、
「そう思われるような素敵な女性でありたいものだな」的なつまらない感想しか出ないけど、16歳の時わたしは何にドキリとしたのだったかなー。

こんなに小気味よく言い放つ男性がいるなんて。
いや、思いをぶつけられずに後になって再燃しているのか。
ちょっと格好悪いかも?
だけど(この歌の感じだと)きっと歌っている彼もなかなかに男前なのでは。

でもそれだけじゃない。
歌っている男性は本当に女性にそう言いたわけじゃないから、歌にしたのかもしれない。好きだったよ、今もきれいだ、やはり俺の目は確かだった。ちょっと飲みに行かないか。あの時言えなかった気持ちを今更言うつもりもないけど、俺のことどう思ってたの?2人きりでちょっと思い出に浸ろうや。そうそう、この感じが懐かしいな
とノスタルジーに半分足を突っ込んだおじさんの歌にも聞こえて楽しい。


面と向かって好意を伝えられてはいないけど、自分の独りよがりではないといいなぁと思いながら気がつかないふりをする女性と
言って駄目だとダサいから自分からは言わないぞ、と思ってちょいちょい仕掛ける男性

その末路(?)の男性側の遠吠えを聞いたようでむず痒かったのかもなぁ。あーあ、って共犯の気持ちになって。「言っちゃえばよかったじゃん。今更そんな歌にするくらいならさ」という女性目線と
「歌って誤魔化してるんだよ。大して本気じゃなかったんだ。惜しかったなぁ、自分のものにできたかもしれなかったのにーーって自分に酔ってんでしょう」と笑う男性目線と
その両方がわたしの中でこの歌を聴いていたみたいだ。
で、同窓会の前になるとエステに行ったりヘアサロンに行ったりしてちょっと綺麗になろうとするのって「一瞬でも男性にそう思わせたい」女性の密やかな願望なんだよなぁと苦笑しながら、女性が欲しくなってしまう魅力的な言葉の威力にたじろいてしまう。


因みに当時、友人にこの歌のことを話したら
「やだ気持ち悪い」と一蹴されたのもこの記憶としっかりセットになっている。

誰かに「好きだった」と言われたいですか?
それとも言いたい?


るる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?