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#128 七草粥だけは必ず、なのは

お正月は苦手です。
もう いくつ寝ると お正月 ーーあの歌、実は怖い。あれはいつもどよんとした重い空気を孕んでいる。ずっと言いにくかったけど、お正月のご馳走も、親戚の集まりも、なくていいのにーと思ってました。

「食べなさい、持って帰りなさい」と詰め込まれるものでパンパンになって、だんだん身動きが取れなくなっていく感じ。分厚い肉まんの皮を巻かれたみたいで息苦しい。外へ出てもうまく肺に空気が入らなくて、昨日の濁ったものが追い出せない。茫然と座ったっきり「早くうちへ帰りたい」と心で願っても、賑やかな空気に水を差す気がして「そろそろお暇します」が言えないわたしは、三が日の当直勤務は率先して手を挙げる。

ありがたいことだよなぁ
本当に、ありがたいことなのだ。

温かい家があって、家族みんな元気で、ご馳走を囲むことができるなんて。

そのことに心から感謝している。
でもその場面は苦手でうまくやれずに
どこかで隠れて泣いたり吐いたりしてしまう。


わたしはフグもカニもすき焼きもいらない。
華やかなお茶菓子もいらない。

脱いだコートが溢れかえる玄関で、くちゃくちゃになった自分のお気に入りのストールを見つけた時
夜中ようやくお風呂に入る母の後ろ姿を見た時
大量の生ごみ袋を裏へ運ぶ時
土鍋の湯気の向こうに義父の不機嫌そうな表情をみてしまった時

あぁうちへ帰りたい と思う。
全部洗い流したい。元通りの場所に戻したい。

鍋から跳ねた野菜や米粒や何かの汁を踏んだまま走り回る子供らの声を、
お酒が入って一層賑やかな大人たちの声を、わたしはただ右から左へ受け流す。

許されるならば今すぐ1人になりたい、静かな場所で、おにぎり一つ持って

ーーなんて言ったらバチが当たるだろうかと思うと怖くて
結局毎年言う勇気がないのです。

なので、お正月が過ぎるのを息を詰めて肉まんになって待ちます。

自宅に帰って1人でお湯に浸かった時の幸福感たるや!
(無音…!)


1月4日、年末に空にしておいた冷蔵庫に入れる食材を買いにスーパーへ行った時
夫に「七草粥だけは絶対毎年作るんだな」と言われてハッとしました。
あぁ確かにそうだ。他のイベントは平気でスキップするくせに、誰にも頼まれなくても七草は買うよな。

だってさ、こんなに理に適った季節のご飯ってある?
七草粥は五臓六腑に染みるんだもの。地味だけどわたしの中で堂々1位の季節の食事。

いつか、人気のない場所で静かに年末年始を過ごそう。
贅沢で賑やかなところは、それが得意な人たちに任せることにしよう。

見たくないものは自分の代で終わりにしよう、それが無理なら仮病だってなんだっていいじゃんと思います。さぁ2024年、一つやりたいことが決まった。
(めちゃくちゃ消極的)


るる



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