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パートナーとしての未来、映画「his」を観て

少し前に話題になっていた映画「his」をアマプラで鑑賞(現在はレンタルか購入)

同性同士のカップルの恋愛ストーリーはいくつもあるとは思うけれど、この問題に対する一般の人々の意識も成熟しつつあるからか、より踏み込んだ部分を描く作品も増えてきたように思う。

ただ好きから始まり、結ばれて終わるのではなく、その先の関係や家族との葛藤を描くという試みも増えてきたと感じる。

今回の物語は甘い時代を経て、一旦別れた恋人同士が当時と全く違う環境で再会し、さらにそのさきに行こうとするものだった。

井川迅(宮沢氷魚)は恋人である日比野渚(藤原季節)から突然別れを告げられた。その日から8年、自分を隠し続けることに疲れた迅は岐阜の片田舎で慎ましく暮らし始めていたが、そこに突然渚が現れる。何と渚は6歳になる娘、空を連れていた。離婚の話を進める間一緒にいることになった2人。若い時とは違って、子供を挟んで向かい合った彼らには、向かい合うべき問題はいくつもあった。

彼らはかつて愛し合った仲だったけれど、渚から一方的に別れを告げられ別々の道を歩んでいた。

迅は会社員として働いていたが、ゲイだといじられるたびに否定し、その空気にも自分にも周囲にも疲れ果てていた。ひっそりと1人で生きることに決めた途端、かつての恋人が訪ねてきた。揺れ動く気持ち、そして娘がいることにショックを受ける迅。

一方渚は、夢を追いかけ未来がまだまだ輝いて見えた時とは違い、ひょんなところから娘を持つことになり、そのかけがえのない存在と、自分への偽りとの間で悩み抜き、とうとう嘘をつくことをやめることにした。

本当の自分を隠し通すことを決めた男と、自分を偽ることをやめた男。かつては気楽に愛し合っていた2人の間には、1人の血を分けた子供がいて、お互いを求める気持ちと解決しなければならない問題の多さにどうしようもなさを感じてもいる。

だが、走り出した気持ちにブレーキをかけることなどできるはずもなく、2人はかつてとは全く別の覚悟で、向き合おうと決意するのだが。

正直、渚が再び迅に会おうと決意し、どんな情熱で訪ねてきたのか、あまり伝わってこなかったし、子供の親権を争う夫婦の法廷でのやりとりが、途中まで迫力に満ちていただけに、その結末があまりにもあっけなく、子供の気持ちが置き去りにされているような気がして、少し消化不良という感じの鑑賞後感でした。

きっとラストの、恋人同士である迅と渚、その間にいる空という娘とその母親である玲奈との会話が全ての肝なのかもしれないけれど、悪くはない結末とは言え、ちょっと違和感が残ったままになったのは残念だった。

何もかも捨てて、静かに暮らすことを選ぶ迅には、宮沢氷魚さん。

彼の中世的な魅力を持った瞳が2人のカップルに説得力を与えているような気がした。右隣にいるのが藤原季節さん。可愛らしい表情と、ちょっと拗ねたところがあるような少年ぽい顔が魅力的。
その雰囲気からアーティスト出身なのかなと思っていたけれど、どうやら違うみたい。どこかのヴォーカルとしてセンターで歌っていてもおかしくない気がする。父親役というには少し子供っぽいかなとも思ったけれど、主夫だったという役どころなので、もしかしてそのほうが合っているのかもしれない。

甘い物語ではなく、途中から映画「チョコレートドーナツ」がよぎったけれど、そこまで現実は辛くなかった。

ただし法廷シーンでは、渚の弁護役として登場した戸田恵子さんがさすがの演技で緊迫感があって良かった。この映画で一番迫力あるシーンだった。

そして迅がある決意を持って臨んだシーン。綺麗事かもしれないけれど、街のおばちゃんの言葉がポツリ、胸に染みた。

偏見や根本的な制度の壁など、日本に定着するにはまだ時間がかかるのかもしれないけれど、明らかに山が動きつつある、そんな予感もする作品だった。

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