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居心地の悪さを抱えながら、生きる。映画「ロマンスドール」

アマプラの見放題に来たので、前々から気になっていた映画「ロマンスドール」を鑑賞。
先に言っておくと、これ、あんまり得意なタイプの話ではなかった。確かに高橋一生と蒼井優の演技は際立っていたし、特に清楚とエロティックが同居したような主人公の妻、蒼井優は良かった。高橋一生が勤める、ロマンスドールを作る小さな町工場の面々もとてもいい。

けれど、である。

美大を卒業後、フリーターをしていた北村哲雄(高橋一生)は先輩からの紹介で小さな町工場の面接に訪れる。何とそこはラブドールの工場で、唯一の造形士である相川(きたろう)の熱い誘いに、哲雄は何となく働くことを承諾する。乳房の型取りを偽りの理由で美術モデルに依頼した哲雄は、当日派遣されてきた園子に一目惚れ。自分の本当の職業を明かせないまま園子と結婚するが、工場が多忙を極め次第に夫婦はすれ違っていく。

監督タナダユキさんの同名小説が原作。ということで、オリジナル作品と言ってもいいと思うのだけれど、ラストに向かうにつれて違和感にじわじわと責め立てられてきて、感情移入できなかったというのが正直なところ。

自分になりたいものになれず、ぶらぶらと1人で生きてきた哲雄が、想像もしていなかったラブドール作りに、最初は何となくではあったけれど介入していくことにより、人生がどんどん変わっていく。

ラブドール作りに並々ならぬ情熱を注いでいる先輩の相川は、素材をラテックス、ソフビ、シリコンと変えながらより良いものをと努力を惜しまない。徐々にその熱意に惹かれて哲雄もラブドール作りに取り組むようになるが、結婚した途端に皮肉にも工場が多忙を極めるようになり、哲雄は園子に本当のことが言えないまま2人はすれ違うようになっていく。

園子の「秘密」については意外性はなく、おそらくそういうことなのだろうなと想像できる展開ではあったけれど、そこからがどうも理解し難い方向へ話が進んでいくのである。

園子は清楚で明るくて哲雄のことを思いやる、いわば「良い妻」らしいのだけれど、本当の彼女はそんなことなく、すれ違う中で2人ともちょっと寄り道をしてしまったりする

そんなふうに起こった様々なことを、とことん湿っぽく語るのではなく、ややあっけらかんとしている2人の様子には新しさと妙なリアリティも感じたけれど、それからはそれを上回る違和感が物語全体を覆ってきて、不穏な空気のままラストまで行ってしまった、という感じだった。

夫婦生活の決して安穏としていないざらざらした手触りをきちんと描いた一方で、園子の生き方、哲雄の秘密への対応、そしてラストに向かう哲雄の行動をすんなり受け入れる工場の面々、などが平坦というか、滑らかすぎて、私にはどうも受け入れ難かった。

ややご都合主義が過ぎて、気味悪さを覚えてしまったのは、私の視界が歪み過ぎているからだろうか。すんなり「良かった、感動した」というレビューも多く書かれている中、1人取り残された。

これが「ほんとの愛」と言うならば欲しくないし、誰かを愛することが「やっかいだ」と表すのであれば、やっかいとはそんなことではない、と言い返したくなってしまう。

素直に見るには、私の時期が違ったんだろう、と思う。ただ、この違和感はきっとこの先も拭えないのだろうと思う。

ラブドールと聞いて思いついた映画はこちら。是枝裕和監督「空気人形」

こちらはもっと簡素な人形で、そのラブドールを可愛がるのは裏寂しい中年の男(板尾創路)。その人形が心を持ってしまうというストーリーで個人的には好きな映画。

そして観賞後には、こちらの映画を思い出した。ペドロアルモドバル監督の「私が、生きる肌」

劇場鑑賞したが、再度見たくなったのでまたレンタルしようと思う。

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