見出し画像

【小説】スキの幻想〜ミントと恋3〜

連作小説「ミントと恋」。EP1は「ミントと毒薬」。マガジン「ミントと恋」にあります。
一週間の限定無料公開。一週間後にEP4が発表になります。


幼なじみ

「お前ほんっとバカだね」
 幼なじみのミクとは幼稚園からの付き合いだ。ずっと見上げていたミクの身長を6年生で抜いて、中学で水泳を始めた俺は体格でも差をつけた。昔チビとからかっていた俺のことを、ミクは今は「バカ」と言う。
「バカじゃねぇよ。じゃあ何だよ、お前この前の数学のテスト何点だったか言ってみろよぉ」
「言うか、バーカ」
 ミクとは家が隣同士、母親同士も仲が良くて物心ついた時から一緒にいる。ミクは水泳部に彼氏がいる友達とよく、プールサイドでグダグダと過ごしているから自然と一緒に帰ることになる。ミクの母親は俺と一緒だと安心するし、俺の母親も「ミクちゃんが痴漢なんかに遭ったら大変だからちゃんと守ってあげるのよ」と言い含めてくる。
 口が悪くて、怒ると手や足まで出してくるミクのどこを「守れば」いいのかよくわからないけど、同じ方向で同じ時間にかえる幼なじみと別々になる方が難しい。
「そう言えばまたユキナリくん、彼女と別れたんだって?」
「ああ、まぁいつものことだよ。別に珍しくない」
 いつもつるんでいるユキナリはイケメンで、とにかくモテる。顔が良くて背が高くて肩幅が広くて優しい、モテない要素がない嫌味な男だ。
 俺はよく女子たちからユキナリについての質問を遠回しに受ける。そんなに聞きたいなら本人に言えばいいのに、女って図々しいのか奥ゆかしいのかよくわからない。
「何が不満なんだろうね、あんな可愛い子ばっかとくっついてるくせに」
「知らん。イケメンはイケメンなりに何か悩みがあんじゃないの?もしかして・・・」
「ん?」
「キスがめちゃくちゃ下手とか?」
「バカ、これだからバカはヤだ」
 ミクは中学生から背が伸びていないから、クラスの中でも小柄な女子に入る。ついでに言うと、高校生ともなると色っぽい女子も出てくるけど、ミクにはそういう類の匂いは全く漂ってこない。
 いつまでも男女関係なくドッヂボールをしていた頃のミクと変わらない。彼女が放つ、回転のかかったボールは容赦なく敵のコマを奪う。重くて、取ろうとすると指先から逃れて弾かれるのだ。
 高校になってドッヂボールをやる機会は減ったけれど、ミクはいつでもあの必殺ボールを繰り出せるだろう。
「何だよ、お前もユキナリと付き合いたいのか?やめとけ、歴代の彼女と比べられて悲惨なことになるぞ」
「うっせーよ、女は見た目だけじゃねーっつの」
「え、何。じゃあミク様は中身が誰よりも優れてるって言いたいわけ?図々しいな」
 ミクが誰かと付き合っていると言う話は聞いたことがない。告白されたと言っては「どう思う?」と聞かれたことはあるけど、そいつどどうなったかよく知らないし、好きな子にチョコレートを作ってると言って、失敗作をもらったことがあるけれどその恋がうまくいったのかどうかわからない。
 大体、ミクが誰かの隣でウフフとにやけてる姿など想像できない。別ににやけなくてもいいけど、昔から知ってる男でも女でもない幼なじみという生き物が急に女っぽくなったら、困る。
「うっせーな、前田。女には優しくしろって教わらなかった?マチコさんに」
 ミクは俺の母親のことをマチコさんと呼ぶ。俺もミクの母親のことを成美さんと呼ぶ。友達の母親同士が自分の子供には「おばさん」とか「〜ちゃんのお母さん」と呼ばせないようにしようと決めて、特訓させられたのだ。
「うん、マチコはか弱い女の子にはって言ってた。口が悪くて手が早い女には関係ないっての」
「前田、今目の前にいるだろ、か弱い女子が」
 ミクはいつの間にかボクのことを「テツくん」から「前田」と呼ぶようになっていた。テツくんと言うのを同級生たちからからかわれた時からだと思う。別にそんなの放っとけばいいのに、ミクがある日急に呼び方を変えてきたのだ。そんなことを気にする奴だなんて思わなかったけど。

友達

ここから先は

4,891字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

サポートをいただければ、これからもっともっと勉強し多くの知識を得ることに使います。