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羽田空港にて、平日の真っ昼間から。

ザクザク。
そのあとの、シットリ。

柔らかいのにみっちりした、ありがたいまでの肉繊維。

今日は、ロースではなくヒレの気分だ。
何故だか、圧倒的に。

彼もどうやらそうだったようで、私たちはメニュー表を開いた瞬間、右半分のページを注視した。
「黄金のヒレカツ」を使ったあれこれのメニューが輝いている。
「黄金のロースカツ」には一瞥もせず、しばし黙って熟考。

平日の昼間から空港のレストランでゆったりランチをするというのは、私のひとつの憧れだった。
去年まで広告代理店で忙しく働いていたのだが、そのときは出張だろうとバタバタしていたし、ひっきりなしに電話が鳴っていたから。

そしていま、ちょっとだけゆったりした時間を手に入れた。

空港のレストランの大きな大きな窓。
あの頃の電話みたいにひっきりなしに飛び立つ飛行機。

世界が動いている。

ああ、出社時間が近づいてくる。

私は、まだ、ずっとここに居続けられるような暮らしを手に入れては居ない。

ヒレカツを注文し、眺める外の景色は、ちょっとだけソワソワするものだった。

平日に自分達だけ立ち止まるのが、まだ、ちょっと居心地悪く。

だけど、目の前のこの人と、そういう人生を歩んでいきたいなと思うのである。

羽田で、次の行き先の飛行機を予約して、またどこかへ行ってしまうような、そんな生き方をしたいのである。

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