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『まちの映画館 踊るマサラシネマ』

先日のマチソワでの「本を紹介する会」では、『まちの映画館 踊るマサラシネマ』を持っていき、紹介した。
本当はべつの本を紹介するつもりにしていたのだけれども、直前に発売されたこの本を発売日に買って、

あまりにおもしろくて、時間の許すかぎり、半分を一気読みして、この本を紹介することにしたのでした。

阪急塚口駅前にある『塚口サンサン劇場』の、どん底からV字回復を成し遂げたサクセスストーリーを、支配人が綴った本だ。
「塚口サンサン劇場」といえば、これと決めた映画は延々と上映しているし、観客が大暴れするマサラ上映やらコスプレ上映やら、ちょっと変わった、いや、まあまあイカれた鑑賞スタイルでの上映をちょいちょいやっている、変な映画館なのだ。

最近、立て続けにインド映画を観たのだけれども、それこそ塚口サンサン劇場があってこそだ。
2年前に公開された『RRR』は今もまだ延々と上映しているし、5年前に公開されて今年の春にリバイバル上映で全国をまわった『バジュランギおじさんと、小さな迷子』も、サンサンでの上映が、周回遅れかのように関西でも全国でも最後の最後だった。
おかげで僕は、どちらの映画も観ることができた。サンサンがあったからこそ、観れたのよ。

いわゆるミニシアターなのだけれども、巷のミニシアターのようなオシャレな佇まいは皆無で、モロに昭和の映画館。
とにかく変な映画館なのだけれども、見逃した映画もサンサンならきっとやってるはず! 僕のなかでのサンサンはそんな立ち位置の映画館なのだ。

そんなサンサンも、
10数年ほど前にはいつ閉館してもおかしくないほど、閑古鳥すら鳴かない映画館だった。

ロードショー上映はライトユーザーが中心だが、時代は配信。時間も場所も選ぶ映画館からは足も遠のく。
再度足を運んでもらうためにもセカンド上映を模索することとなった。すると、ほんの少ーーーーーしだけど、手応えがあった。というよりも雰囲気がちょっと変わった。
そこでこんなエピソード。
時代は急速にデジタル化が進むのだけど、サンサンのような映画館ではデジタルへの設備投資はおいそれと二つ返事でできるものではない。ただ、配給される映画も、デジタルが主流となり、フィルムの本数はかなり少なくなっていく。
そんなとき、『雷人ザボーガー』を上映してみないかと声がかかる。これは1970年代にテレビ放映されていたヒーローもので、30年ぶりに映画化されたものだそうだ。ところが、手に入るのはデジタルばかりで、探して探してフィルムが1本だけ見つかった。そこで上映を決め、告知をすると、問い合わせが殺到する。それもこれまでのサンサンでは聞いたこともないような問い合わせが。
「周辺にホテルはあるか?」
「新大阪駅から近いか?」
「伊丹空港からは電車かタクシーかどちらがいいか?」
などなど。
つまり、30年ぶりに映画化された『雷人ザボーガー』のフィルム版なら、どんなに遠くからでも観に行きたい!と刺さる層がたくさんいることがわかり、ここからサンサンは右上だけを見続ける進撃がはじまったようなのだ。
僕が知っているサンサンも、じつはこれ以降。
そんなストーリーがあったのか。

これ以降、サンサンもデジタル化に踏み切るものの、いかんせんカネがかかる。結局、4スクリーン中3スクリーンしかデジタル設備を設置できず、1スクリーンはフィルムのままとなる。が、しかし、そのころになると、新作はすべてデジタルで制作され、フィルムがない。となると、1スクリーンでは新作の上映が不可能になるわけ。
そこで、それを逆手にとって、かつての名作をフィルムでガンガン上映することになる。
溝口健二特集
成瀬巳喜男特集
深作欣二特集
大林宣彦特集
相米慎二特集
森田芳光特集
市川崑特集
小津安二郎特集
黒澤明特集
そんな具合に過去の名作を次から次へと上映し、これが若い人には新鮮で、結構話題となり、お客も入った。
そんな具合にV字回復の黎明期がスタートしたという。

これ以降、サンサンはいろんなことをやっている。
『桐島、部活やめるんだってよ』では「桐島に一言物申す〜!」と題したアフタートークのイベントを実施し、鑑賞者と熱いクロストークで盛り上がる。

『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』では、インドでの上映スタイルであるらしいマサラ上映をやってみよう!と。映画館で映画を観ながら、一緒に歌い踊り、スターに黄色い歓声を投げ、盛り上げシーンではクラッカーを鳴らし、紙吹雪を撒く。お祭りのように映画を楽しむマサラ上映は、この映画からはじまった。2013年6月1日のこと。

ロボットのイエーガーと怪獣のKAIJUが壮絶なバトルを繰り広げる『パシフィック・リム』では、鑑賞者がイエーガー席とKAIJU席に分かれて「激闘上映会」を。KAIJUが登場するとKAIJU席から歓声が上がり、イエーガー席からは大ブーイングが。イエーガーが登場すると、逆の現象が。そんな歓声とブーイングが交錯する大盛り上がりの中で、鑑賞者の誰かが、「今日は勝てる!」と、その後の展開がわかっているのにもかかわらず、感極まって、そう叫ぶ。おもろすぎやろ(笑)

殺されてハエになった主人公が活躍する『マッキー』では、スタッフがハエのコスプレをし、なにも呼びかけてないのに、ハエ叩きを持って鑑賞に来るお客さんが何人も現れる。。。

『MMFR』では劇中に登場する焼印が印象的だ。そこで、特殊メイクアップアーティストにお願いして、観客に焼印を特殊メイクしてもらう。。

『キングスマン』ではスーツ、黒縁メガネ、黒の蝙蝠傘の3点セットが基本だが、上映に際しては、鑑賞者にこれらのドレスコードをお願いすると、当日、塚口駅前には、その出立のビシッとした、しかし場違いな人たちで溢れたとか。。。

『ガールズ&パンツァー』では、ダンボールで超巨大な戦車を手作りし、劇場に展示し、映画の世界観に没入させる。。

こんな例がなんぼでも紹介されている。
スタッフのノリがいいし、支配人も、どーぞどーぞ!と、やってみなはれ精神で迎える。
やるならとことん!という気構えがあるし、そのバカバカしさが良い結果を生むとも、サンサンの人たちは考えている。

サンサンでは、映画館が映画を鑑賞するだけの場所から「体験する場所」になっているし、テーマパークみたいに楽しめる場所になっているし、お客さんの要望によく応えていることが分かる。
映画館のスタッフとお客さんがものすごくよく話しているし、そのなかで出た、こんなことをやってほしい!といったニーズに応えようとする姿がいいのだ。そのために、前代未聞なことをいくつもやっている。

この本では、上手くいったおもろい話ばかりが並んでいて、じつは失敗例はほとんど紹介されておらず、でもきっと試行錯誤の紆余曲折はあったはずで、そのへんは話半分にさっ引いてもいいのかもしれないが、それでも、次から次へと繰り出されるアホみたいでもありおもろくもある試みの数々は、読んでいるだけで爽快感すら覚える。

まだ半分しか読んでいないのだけど。それでもすでにじゅーぶんにおもろい。
『あまろっく』、近いうちに観に行きます。

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