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清涼寺の釈迦如来像


如来・菩薩・明王・天

仏像入門の本の1ページ目には、たいていこんな図が載っています。

如来・菩薩・明王・天
と4つに分かれます。
如来と菩薩は仏教の世界観が生んだ、純粋に仏教ワールドの登場人物です。主要キャスト。
明王や天は、ヒンドゥー教や神道から取り込まれた神さんや人間のようなものたち。ヒトに近い存在の人たちです。
仏教の世界観から見れば、メインのカバーストーリーの外にいる、スピンオフ的な存在の人たちです。もちろん、ヒンドゥー教の世界観のなかではメインキャストの人です。
どの世界観から見るのかで、その位置付けが変わります。
たとえばシヴァ神は大黒天さんだし、ブラフマーは梵天、ヴィシュヌ神は馬頭観音と、ヒンドゥーの三大神さんは仏教では全員脇役です。
逆にヒンドゥーの世界観では、ブッダは脇役中の脇役です。

まず、如来から見てみましょう。
如来さんには、
大日如来
釈迦如来
阿弥陀如来
薬師如来
といらっしゃいます。
他にも、阿閦如来、宝生如来、無量寿如来などのレアキャラがいますが、だいたいはこの4つ、大日如来、釈迦如来、阿弥陀如来、薬師如来を覚えておけば、カバーできます。

如来や菩薩にもたくさんのキャラがいるのですが、なぜたくさんのキャラがいるのかというと、経典に書かれていることや教え、事象をビジュアル化したものが仏像なので、それぞれの考え方が表現されているわけで、全人格的な存在ではないのです。あくまで、一面を表現しているのが仏像です。なので、数が多い。

大日如来は、ラスボス。宇宙そのもの。ピカチュウで言うところの、カビゴン。
今の野球界でいうところの大谷翔平です。
釈迦如来というのは、まさしくお釈迦さまを偶像化したもので、基本中の基本というか、この人が仏像の最初です。
最初にガンダーラでつくられた仏像も、釈迦如来です。

清涼寺の釈迦如来像

釈迦如来で、僕が好きなのは、清涼寺の釈迦如来像。
インバウンドで殺人的な混雑具合の嵐山の少し奥まったところに、清涼寺はあります。
たぶん、清涼寺が嵐山の混雑の境目というか、ギリ、混んでるかどうかというお寺です。
源氏物語の主人公の光源氏のモデル、源融の別荘だったところです。もしかしたら、今年は、大河ドラマのネタでにぎわってるかもしれません。
平安末期に建てられたお寺さんですが、ここに安置されている釈迦如来像は、インドから中国を経由して日本にやって来たと言われています。
釈迦如来をご本尊として祀っているので、清涼寺は別名、嵯峨釈迦堂とも呼ばれています。

嵐山の奥、嵯峨野に清涼寺はある。別名、嵯峨釈迦堂。

こちらの釈迦如来は、お釈迦さんが37才のときの姿と言われています。
高さ162cmで、見慣れた日本の仏像とは少し違う印象を受けます。どこかエキゾチックで、ガンダーラの仏像によく見られる縄を編んだような頭髪、意志の強さを示すかのような大きな眉と引き締まった鼻筋、身体に張りついた水紋のようなヒダのある薄い衣など、当時の日本の仏像にはない特徴が異国情緒を醸し出していてます。
異国情緒があるところから、外国人のようにも見え、生身のお釈迦さんのようにも見え、人としてのお釈迦さんに対する信仰の対象となり、全国でこの清涼寺の釈迦如来像が模刻されたそうです。
鎌倉時代は「釈迦如来に還れ」と提唱された時代で、これにかぎらず、釈迦如来像が多く造られるようになりました。
この清涼寺の釈迦如来像は栴檀の木でできていて、国宝に指定されています。

清涼寺の釈迦如来像。僕たちが見慣れた仏像ではなく、異国情緒が漂う。
生身のお釈迦さんのようにも見え、人としてのお釈迦さんに対する信仰の対象となり、全国でこの清涼寺の釈迦如来像が模刻された

奈良仏教は国家のため仏教でした。
平安仏教は貴族や権力者のための仏教です。
その後、
空海が大乗仏教の最終形態である密教を唐から持ち帰り、法然や親鸞、蓮如らが念仏を広め、
仏教はようやく大衆のものになります。
この釈迦如来像は、そういう時代を代表する仏像です。
大衆にすごく人気があったと言われている仏像です。

ちなみにこの釈迦如来像には、ちょっとしたトピックがあります。
昭和28年、この仏像の調査をおこなったところ、背中にフタがあることがわかり、そのフタを開けてみると、像の体内から驚くべきものが見つかりました。それは絹でつくられた五臓六腑の模型。これには「雍熙(ようき)2年」と中国・北宋の年号が書かれていることから、インドから中国にやって来たときに収められたものであることが分かり、世紀の大発見として当時の大ニュースにもなったそうです。この五臓六腑の形状には、今に通じる正確さがあり、1000年以上も前の中国の医学知識を知る上でとても貴重な資料となっているとのことです。

清涼寺の釈迦如来像には、絹でつくられた五臓六腑が収められていた。

また、1218年、鎌倉時代に入ってから、快慶が修復をしたという記録が残っています。

経堂もあるよ

そうそう、清涼寺には、経蔵があります。
5408巻の経典が収められています。これ、まわすことができるんです。一回まわすとお経を全部読んだことになるので、ぜひまわしてみてください。

5408巻の経典が収められた経堂。身体全体を使って回すことができる。一周回すとすべての経を読んだことになると言われている。


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