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#455 過払金(かばらいきん):今日は利息制限法の歴史について書いています

【 自己紹介 】

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【 今日のトピック:過払金 】

今日は過払金(かばらいきん)についてお話します。

「過払金」は,いまだにラジオやテレビのコマーシャルが頻繁に流れてきます。

(「いまだに」の理由はおいおい説明します)

司法書士や弁護士が,「過去に借金をしたことはありませんか?一度でも借金したことがある人には過払金が戻ってくる可能性があります。気軽にご相談ください」という形でコマーシャルされることがほとんどです。

僕も,運転中に何気なく聞いていたラジオで,過払金のコマーシャルを耳にしたことは何度もあります。

自宅の郵便受けに司法書士事務所のポスティング・チラシも入っていました(笑)

いろんなサラ金業者や銀行が発行するカードのブランドがずらーっと並べられていて,各カードごとに,返金された過払金の平均額が一覧になっていました。

このポスティング・チラシ,なんか,「だいたいこれくらいの金額が返金されますよ」という,間違った情報を提供していて,かなりグレーゾーンだと思うのですが(#過払金だけに#「過払金だけに」グレーゾーンの意味は後ほどわかります),まあ,ポスティング・チラシを配ってまで過払金のコマーシャルをしようとしている司法書士も現実にいます。

まあ,こんな感じで,「過払金」というのは,かなり世間に浸透していると思いますが,ただ,ラジオやテレビのコマーシャルを聞いただけでは,過払金って何のことか全然わからないですよね。

実際に,僕も,弁護士になる前から,過払金のコマーシャルは何度も目にしていましたが,弁護士になって実際に過払金について勉強するまで,過払金って何のことか全然知りませんでした。

(過払金についてわかっていないくらい,純粋無垢で世間に疑問を持たないおこちゃまだったということでもありますが)

さて,前置きが長くなりましたが,世間に浸透している「過払金」について,「そもそも過払金とは?」という話から始めようと思います。

「過払金」とは,その漢字を見てもらうとわかるとおり,「払い過ぎたお金」です。

払い過ぎたお金=過払金,を返してもらうというのが,司法書士や弁護士が躍起になって宣伝している「過払金」です。

過払金って,これくらい単純な話です。お金を払い過ぎたから,返金してもらうという,めちゃくちゃに単純な話です。

めちゃくちゃに単純なのですが,「払い過ぎなのであれば,最初から払わなければいいのに」とは思いませんか?

だって,誰しも,わざわざ「必要以上に払う」なんてしたくありませんよね。

「払い過ぎ」るくらいなら,最初から必要なぶんだけ払っておけばいいはずです。

「払い過ぎたお金を返金してもらう」という「過払金」には,こういった素朴な疑問が生じます。ここに的を絞って,話を進めていこうと思います。

さて,「過払金」とは「払い過ぎたお金」なのですが,「払い過ぎた」を決める基準は何なのでしょうか。

何か基準がなければ,「払い過ぎ」なのかどうか,判別できません。

僕ら弁護士が扱う法律の世界は,権利と義務の世界です。

権利があるのであれば,その権利は,裁判を通じて実現することができます。いくら相手が嫌がっても,国家が強制的に実現できるのが「権利」です。

過払金に置き換えれば,過払金を返金してもらう「権利」があるんだとすれば,その権利は,裁判を通じて実現することができることになります。

裁判を通じて実現し,国家が強制的に返金できるわけですから,その権利が曖昧ではいけません。

「払い過ぎ」を決める明確な基準がなければダメなんです。逆から言えば,明確な基準があるからこそ,法的な「権利」として認められているのです。

さて,じゃあ,「払い過ぎ」を決める基準が何かというと,利息制限法という法律です。

利息制限法とは,その名の通り,お金の貸し借りをする場合の利息に「制限」を加えています。

「制限を加える」というのは,「上限を決める」ということです。

じゃあ,利息制限法には,利息の「上限」がどのように決められているのでしょう。

これは,↓のとおりです。(こちら

・10万円未満の貸し借りであれば,年利20%まで

・10万円~100万円未満は,年利18%まで

・100万円以上は年利15%まで

この上限を超えてお金を貸し付けることを禁止するのが,利息制限法です。

利息制限法で明確に「上限」が決められているからこそ,「払い過ぎ」の基準もハッキリしているわけです。↑の上限を超えて払った場合が「払い過ぎ」に該当し,払い過ぎたぶんは返金してもらえます。

↑の上限は,利息制限法が制定された昭和29年から一切変更されていません。(こちら)

昭和29年に利息制限法が制定される前も,「利息制限法」という法律は存在していて,利率の上限を定めていました。

なんと,利息制限法は,明治10年には既に存在しています笑(こちら)。明治10年って,1877年です。王政復古の大号令によって,江戸幕府から薩長同盟の新政府に政権交代を果たしたのが1868年1月3日です。それから10年も経たないうちに,利息制限法が定められ,利息の上限について規制していたようです。

昔から,高利貸しっていたんですね。人間が考えることは,時代を超えて共通しているようです。

高利貸しがいるからこそ,利息制限法によって利率の上限を決めて,高利貸しの一掃を図ろうとしたのでしょう。

とはいえ,お金が足りず,お金を借りたい人はやっぱりいて,その人たちにコソコソと利息制限法を超えてお金を貸していた人は,今と同じようにいたのでしょう。

コソコソとお金のない人たちにお金を貸しているのが,いわゆる「ヤミ金」です。利息制限法による規制と,ヤミ金による規制逃れは,明治10年から既に始まっていたようです。

この明治10年の利息制限法では,

・100円までは年利20%まで

・100円~1000円は年利15%まで

・1000円以上は年利12%まで

となっています。物価が違うので,なんか迫力に欠けますが,この数字は,今の利息制限法よりも少し厳しめの印象を受けます。明治10年頃の「100円」が,今の感覚としてどれくらいなのか,全く検討もつきません(笑)。

少し調べてみたら,1両=1円で明治4年に「円」が導入されたようで(こちら),そして,幕末の1両が,現在の約20万円に相当するらしいです(こちら)。

これを↑の上限に当てはめると,利息制限法が制定された明治10年当時は,2000万円までの貸し付けの上限利率が20%で,2000万円~2億円までが年利15%,2億円以上が年利12%という規定だったことになります。

なんか,規制の対象が金持ちですね(笑)

一般庶民の間で悪さを働いていた高利貸しに対する規制というよりは,金持ち同士の貸し借りを規制していた法律だったのかもしれません。

とはいえ,100円までの貸し借りも規制の対象ですから,一般庶民も規制の範囲に含まれます。

ただ,この「利息制限法」が,一般庶民に対してどれくらい浸透していたのかは微妙なところです。

まあ,こんな感じで,「利息制限法」は,かなり歴史が古いです。

明治10年には既に日本に存在し,利息の上限が規制されていました。

しかも,この利率は,大正8年に一度改正されています(こちら)。この改正によって↓

・100円未満までは年利15%

・100円以上1000円未満までは年利12%

・1000円以上は年利10%

という風に,上限が下げられ,規制が厳しくなりました。

大正8年は,明治10年と比べて物価も上昇し,当時の1円を現在価値に置き換えると,約4000円らしいです(こちら)。

そうすると,大正8年の改正によって,

・40万円未満までは年利15%

・40万円以上~400万円未満までは年利12%

・400万円以上は年利10%

となったことになります。

この大正時代の改正によって,利息制限法は,今と比べてかなり厳しくなったと思います。

↑の上限利率は,昭和29年に今の利息制限法が制定されるまで,ずっと続きます。

【 まとめ 】

今日,興味本位で利息制限法の歴史について調べてみたら,かなり面白い事実が発覚しました。


利息制限法は,なんと明治10年には既にあって,しかも,その上限利率は,現在の利息制限法と遜色ないのです。

そして,大正8年改正後は,今よりもかなり厳しい上限利率となりました。

今も昔も,利息の上限は法律で決めなきゃならない,という理念は共通しているようです。

明治10年から利息制限法が存在するということは,明治10年から「過払金」はあった,ということを意味します。

繰り返しになりますが,利息制限法の上限利率を超えてお金を貸し借りすることは禁止されていて,にもかかわらず,その上限利率を超えてお金を返済してしまった場合に,「払い過ぎ」を理由に返金してもらうのが「過払金」です。

だから,利息制限法が初めて制定された明治10年から,「過払金」はあったはずなのですが,どうも,実際は違うようです。

このカラクリについては,明日以降説明します。

キーワードは,「出資法による刑事罰」と「みなし弁済」です。

それではまた明日!・・・↓

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