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弁護士のスキルは法律知識だけじゃない

【 自己紹介 】

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このブログでは、2019年7月にうつ病を発症し、それをきっかけに同年12月からブログを始めて、それ以降、600日以上毎日ブログ更新してきた、しがないサラリーマン弁護士である僕が、日々考えていることを綴っています。

法律に関する記事は既にたくさん書いていますので、興味のある方は、こちらにテーマ別で整理していますので、興味のあるテーマを選んでご覧ください。

【 今日のトピック:弁護士のスキル 】

今日は、世間に知られていない弁護士のスキルについてお話したいと思います。


一般的なイメージでは、「弁護士はとにかく法律知識が豊富だ」と思われている気がします。

だいぶ少なくなってきたと思いますが、今だに、「六法全書全部覚えているんでしょ?」と言われます。

いやいや、覚えているわけないでしょ!と素朴に思うんですが、そういう僕の感情を抜きにしても、法律を全部覚えなきゃ司法試験に合格できないのであれば、僕はたぶん一生合格しません。

六法全書全部覚えなきゃ合格しないような試験であれば、試験直前に張ったヤマがことごとく当たってくれるという、一生に一回もないくらいのラッキーに遭遇しないと合格できなかったでしょう。

でも、実際の司法試験は、そういう試験ではありません。

もちろん、司法試験でも、基本的な知識は問われますが、それ以上に、法的な考え方・論理的な思考力・論理的思考を文章に落とし込む能力が問われます。

こういった能力を問う大前提として、基本的な法的知識も要求するわけです。

だから、司法試験に合格したとしても、法的な知識は基本的な部分しか担保されていません。もちろん、合格者の中にもランクがあって、全員が基本的な知識しか知らないわけではありません。

(弁護士以外の人にとっては、弁護士の中にランクがあることが想像しづらいと思いますが、普通に考えれば、たくさんいる合格者の中でピンとキリがあるのは当たり前です)

で、僕は、合格者の中でも、圧倒的にコスパよく(覚えた法的な知識が少なく)合格しているので、法的な知識は非常に少ないです。

そして、大切なのは(僕にとっての僥倖は)、合格してしまえば、法的な知識は、いろいろと調べて補充することができます。

合格して仕事を初めてしまえば、知識は本が教えてくれるので、一切覚えておかなくていいんです!

(とはいえ、知っている知識が多いほうが、調べる手間を省けるので仕事は早くなりますし、他にも、知っている知識が多いと、調べるきっかけが多くなり、調べる時間も短くなったり、調査の深度が深くなったりします。だから、結局、仕事を始めた後も、法的な知識が豊富なほうが有利です)

さてさて、ここまでは前段で、僕が今日書きたいのは、法的知識以外に弁護士が有するスキルです。

それは、「事実認定」のスキルです。

「事実認定」とは、まあ、その名の通り、事実を認定することです。

そもそも、法律って、どんな事実があったのか確定して初めて機能します。

例えば、「人を殺す」ことは犯罪となると刑法に書いてありますが、この条文(法律)は、「人を殺した」という事実が認定されないと、機能しません(=法律を適用して犯人を処罰することはできません)。

「人を殺す」という事実には、「自分が人を殺していることを認識している」という「殺意」も含まれます。この「殺意」も認定されて初めて、「人を殺した」という事実が認定できるのです

最終的に殺意があったかどうかを認定するのは裁判官ですが、だからといって、弁護士が事実認定スキルがなくていいかというと、全くそうじゃありません。

弁護士も、裁判官と同等に、事実認定のプロです。弁護士は、裁判官の事実認定プロセス(事実認定する際の思考方法)を、トレースできるんです。

そのトレースされた思考方法に基づいて、自分の依頼者にとって有利になるように、証拠を積み重ねます。

こういった、「事実認定のトレース」が、弁護士にとって大きなスキル(武器)です。

この「事実認定」って何をしているかというと、さっきの「殺意」の例で言えば、「殺意」の存在を示す事実を積み上げているんです。

ああ、殺意を証明しようとするのは弁護士ではなく検察官でしたね(笑)。

検察官も弁護士と同じ事実認定のプロです。「殺意の証明」ってよく言われますが、これって、被告人本人に「殺すつもりでした!」と言わせることではありません。

というか、そう言ってくれていたら、殺意が争点にはなりませんよね(笑)。「殺すつもりはなかった」と被告人が言うからこそ、殺意を証明しなきゃいけなくなるわけです。

被告人が殺意を否定していてもなお、殺意があったと認めざるを得ないだけの事実を積み上げる。

これが、事実認定です。

それと同時に、殺意を疑わせる事実があるのなら、その事実も、殺意と矛盾しないことを示します。これも事実認定です。

まあ、結局、

・殺意を認定するためにプラスに作用する事実は何か

・そのプラスに作用する事実を積み上げた結果、「殺意の存在」に届いているか

・マイナスに作用する事実は何か

・マイナスに作用する事実あるとしても、殺意の存在と矛盾なく説明できるか

こんなことを考えるのが「事実認定」という作業です。

そして、プラスに作用する各事実の存在を示すのが「証明(立証)」です。

裁判所が、「まあ、十中八九この事実は存在するよね」と思うことが「証明(立証)」です。

で、立証された各事実(プラスに作用する事実)が、「殺意の存在」に届いているかどうかを見ます。

ここで、殺意の存在に届いていなければ、殺意が認められず無罪(「人を殺した」という要件を満たさない)となります。

そして、「殺意の存在」に届いている場合は、次に、殺意を疑わせる事実は何かを認定します。

その上で、殺意を疑わせる事実も、殺意の存在と矛盾なく説明できるのであれば、殺意は認定されます。

逆に、どうしても殺意の存在と矛盾なく説明するのが難しい事実が残る場合、例えば、刃物が被害者に刺さった角度が、被害者と被告人との位置関係に照らして物理的にあり得ない場合は、殺意の存在にプラスに作用する事実がどれだけ積み上がっても、殺意を認定することはできません(この場合は、殺意どころか、「殺した」という客観的な事実が認められないでしょう)

こんなスキルを、弁護士は身につけています。

ただ、このスキルって、よくよく考えるとめちゃくちゃ素朴なんです。だから、「弁護士特有のスキル」というのは躊躇を覚えるような感じもします。現に、実は、誰しも、日々の生活でこの「事実認定」作業を繰り返しています。

というのも、この作業って、「事実」だけでなく、「評価」を認定する際も同じで、例えば、あの人が「悪い」かどうかを認定するときに、プラスに作用する事実をまず考えて、それが「悪い」に届いているかどうかをまず考えますよね?

で、その後に、「こんな良いこともあるよ」という感じで、「悪い」を疑わせる事実を考慮し、それでもなお、「悪い」と思えるのであれば、その人を「悪い」と認定します。

だから、↑に書いた「事実認定」のプロセスって、とても素朴な人間の営みなんです。

ただ、これを、理論的に言語化して理解しているのが弁護士の特徴で、それを仕事で繰り返しているからこそ、精度がどんどん上がっていて、それが弁護士の「スキル」と呼べるだけの根拠だと僕は思います。

実は、この「事実認定」って、文章化したら簡単な気もしますが、実は、かなり専門的です。というのも、どういう事実があったら「殺意」を示すのかって、考えると難しいです。

抽象的にはいろいろと考えられるでしょうが、具体的な事案で考えるのは、結構ハードです。

この時、めちゃくちゃ想像力が必要で、この「想像力」も、知識と経験が物を言いいます。

想像するのも、テキトーには考えられません。いろいろと想像できる素地が広くて大きい人ほど、より適切な想像にたどり着けるんです。

それが、弁護士の実力なんです。

この実力は、経験も必要でしょうが、勉強も大切です。経験だけだと、経験しか糧にできず、経験でしか想像の基盤を学べません。

勉強すれば、経験によっては身につけようもない知識を手に入れることができます。その知識が、想像の幅を広げてくれます。

「想像の幅を広げる」というのが、弁護士の腕力なんだと思います。

で、その大前提として、事実認定の仕組みを理論的に理解し、実践しているんです。

ここが、弁護士・裁判官・検察官など、事実認定を生業としている職業は、他の追随を許さないと僕は思っています。

そして、事実認定は、裁判で必要なのは言うまでもないんですが、それ以外にも、事実を見る精度も上げてくれると思っています。

例えば、今の児相の仕事でも、「ゴミ屋敷」という記載が出てきたりするんですが、「ゴミ屋敷」はいわば評価的な記載なので、「ゴミ屋敷って何がどう置いてあったんですか?」ということを更に聞いたりします。

で、聞けばいいという話ではなく、「テーブルに何があったの?」とか「水回りに食器が積み上がっていたの?」とか、そういう風に、家の形を想像しながら聞くわけです。

こういう風に、事実を見る精度が、知らずしらずのうちにスキルアップさせてくれるのが「事実認定」作業で、それを生業としているのが弁護士なんです。

弁護士の「事実認定」スキルが、法的な知識のほかに、弁護士を特別にしています。

ここを知っていてほしいなと今日は思いました。

今日はこのへんにします。

それではまた明日!・・・↓

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