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嫡出推定と親子関係を否定する方法

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このブログでは、2019年7月にうつ病を発症し、それをきっかけに同年12月からブログを始めて、それ以降、600日以上毎日ブログ更新してきた、しがないサラリーマン弁護士である僕が、日々考えていることを綴っています。

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法律に関する記事は既にたくさん書いていますので、興味のある方は、こちらにテーマ別で整理していますので、興味のあるテーマを選んでご覧ください。

【 今日のトピック:父子関係の否定 】

何度もこのテーマについて書いている気がしますが、また少し理解が深まったので、少し書いていこうと思います。

さて、民法には、「嫡出推定」なる決まりごとがあります。

ざっくり言えば、「婚姻中の母親が出産した子どもの戸籍の父欄には、自動的に母親の夫が記載される」というのが、「嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)」です。

ま、普通そうですしね。

「婚姻」とは「性的独占」です。つまり、「お互いに配偶者としかセックスしません」という約束こそ、「婚姻」なんです。

それがイヤなら婚姻という制度を最初から利用しなきゃいいだけです。

別に婚姻しなくても子どもは生んでいいし、婚姻しなくても、子の父親(子どもを認知した父親)には、子どもを養う法的な義務があるので、子どもの母親は、子どもに代わって(子どもの代理人として)、父親に対して養育費を請求することができます。

未婚の女性が生んだ子を「非嫡出子」、婚姻中の女性が生んだ子を「嫡出子」と呼びますが、つい最近まで、両者の待遇に差を設けていました。

有名なのは相続分の差で、非嫡出子は嫡出子の半分しか遺産をもらえないことになっていました。

しかし、嫡出子かどうかで相続分に差を設けるのは合理的でないと最高裁が結論づけ、今では、嫡出子かどうかで相続分に差は出ないようになっています。

だから、現在では、嫡出子かどうかで待遇に差が出ることは少なくなっていますし、そもそも、自分が嫡出子かどうかを気にするのも一般的ではなくなっていると思います。

まあ、子が嫡出子かどうかを気にするのは各自の勝手ですが、ただ、嫡出子かどうかを気にするのは、今では、「古風」を通り越して、「頭が固い」とか「頭大丈夫?」とか「古臭すぎて逆に怖い」と思われかねないレベルにまで達していると思います。

ま、「嫡出」に関する説明はこれくらいにしておきますが、嫡出子かどうかで差を設けることがおかしいとは思われるようにはなってきましたが、とはいえ、「嫡出」という概念は現状も色濃く残っていて、だからこそ、「嫡出推定」という形で、母親の夫が自動的に生まれた子の父として戸籍上登録されます。

まあ、その母親自身が「婚姻」という制度を利用しているわけですから、そういう母親の生んだ子に、「嫡出推定」が適用されるのは、まあ良いのかなと僕は思います。

母親が結婚していても、自動的には夫の子とせずに、父親から常に認知を要求するという制度設計でもいいんでしょうが、そうなると、認知しない限り子どもの法的な実父が不明な状態が続いてしまうので、それよりは、婚姻中なら自動的に子の父親の欄が埋まったほうがいいのかなとは思います。

で、嫡出否認の話に移りますが、「嫡出否認」とは、嫡出推定によって生まれた子の父欄に登録された男性が、父欄を空欄にする手続きです。

この「嫡出否認」は、子が生まれてから1年以内に訴訟提起する必要があります。子が1歳になった途端、できなくなります。

こういった期間制限という不都合があるだけでなく、嫡出否認できるのは、子の父親の欄に登録されている男性のみなんです。

それ以外は、誰ひとりできません。

でも、父子関係を否定したいのは、父親欄に登録されている男性だけじゃありませんよね?

子ども本人だって否定したいだろうし、生物学的な父親(精子提供者)だって、父子関係を否定したくなることもあるでしょう(子の母親と不倫しておいて父子関係を否定したくなるのがけしからんかどうかはおいときましょう)。

しかし、嫡出否認の訴えは、こういった、子ども本人や精子提供者から提起することは不可能で、戸籍上の父親(父欄に登録されている男性)のみに許されています。

嫡出否認の訴えには、

・生まれて1年以内という期間制限

・提起できるのが戸籍上の父親のみ

という不都合があるのですが、民法は、この不都合に対して全く対処法を用意していません。

だから、民法を読む限り、戸籍上の父親が1年以内に嫡出否認の訴えを提起しなかった(できなかった)のであれば、それでいい(父子関係を一生修正できないままでいい)ということになっています。

僕らはそういう社会に住んでいると考えてもいいんですが、最高裁は、「それじゃあよくない」と考え、少し修正しています。

それが、「推定の及ばない子」という概念で、嫡出推定によって、自動的に父親の欄が埋まった子どもが、「推定の及ばない子」に該当するのであれば、嫡出否認とは別に、「親子関係不存在確認訴訟」という方法で父子関係を否定することができるようになっています。

この「推定の及ばない子」という概念ですが、DNA鑑定によって、戸籍上の父親が精子提供者ではないことが判明してもダメです。

つまり、DNA鑑定によって、戸籍上の父親と生まれた子の間に血縁関係がないことが判明しても、それだけじゃ、父子関係を否定してはいけないことになっています。

「推定の及ばない子」に該当するためには、子を懐胎した当時、夫婦が別居中であったなど、客観的に性交渉が困難であった事情が必要です。

だから、子を懐胎した当時、妻が夫との同居を続けながら不倫し、不倫相手の子を妊娠・出産した場合、生まれた子が「推定の及ばない子」に該当する余地はなく、したがって、子が1歳になるまでに夫が嫡出否認の訴えを提起しなかったのなら、法的には、父子関係を永久に否定できません。

残念ながら!

逆に、「推定の及ばない子」であることを証明できれば、嫡出否認の期間(子が1歳になるまで)が経過した後でも、父子関係を否定することができます。

で、ここまでは知っていたんですが、つい最近知ったことがあって、それは、生物学的な父親から、父子関係を否定するために親子関係不存在確認訴訟を提起できる、ということです。

それを知った僕はなぜか、生物学的な父親から提起する親子関係不存在確認では、「推定の及ばない子」という概念を使わないと思ってしまっていました。

でも、生物学的な父親が提起した親子関係不存在確認訴訟であっても、結局、「推定の及ばない子」であることを立証する必要があって、「推定の及ばない子」と認定できない限り、父子関係が否定される余地はありません。

そこは同じなんです。

結局、父子関係を否定したいのが、子ども本人だろうが、戸籍上の父親だろうが、生物学的な父親だろうが、子どもが1歳になってしまうと、子どもが「推定の及ばない子」であることを立証しなきゃダメなんです。

ここまでが法的な理解なんですが、実際は、親子関係不存在確認の「調停」というものがあります。

「調停」とは、裁判所での話し合いなんですが、その話し合いで、父子関係の否定について話し合いがまとまれば、その話し合いに基づいて、裁判所が父子関係を否定する「審判」を出してあげるという運用がなされているようです。

法的には、「推定の及ばない子」に該当した場合に限って、父子関係を否定することができるのですが、「調停」はあくまで話し合いなので、「推定の及ばない子」かどうかを一旦度外視して、話し合いがまとまれば、「推定の及ばない子」かどうかを厳密には判断せず、裁判所が父子関係を否定する審判を出して、その審判を戸籍課に持っていけば、戸籍課も戸籍を修正してくれるようです。

しかし、法的には、「推定の及ばない子」が証明できない限り、父子関係を否定することはできないので、「話し合い」といっても、父子関係を否定したい側が不利にはなってしまいます。

法律の世界も恋愛と同じで、求めたほうの立場が弱くなります。

「父子関係否定したいの?だったらそっちが譲歩してよ」という話にどうしてもなってしまいます。

「推定の及ばない子」を立証できる可能性が高いなら、譲歩を求めてきた相手に対し、「あっそ。だったら訴訟するよ」と強気でいけます。

しかし、「推定の及ばない子」の立証は、一般的に難しいので、強気でいけると安易に判断することはできません。

精子提供者でない男性が父親として戸籍に登録されていることは意外と多いので(僕もしばしば出くわします)、父子関係を否定したい子ども本人、戸籍上の父親、生物学的な父親の皆さんは、いちど弁護士に相談されてみてください。

それではまた明日!・・・↓

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