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#474 潜在的稼働能力:婚姻費用・養育費を算定する際に収入をゼロとみなしていいのか

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※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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【 今日のトピック:潜在的稼働能力 】

今日はとても難しそうなタイトルですが,結構大事だと思うので,ご説明します。

婚姻費用や養育費って,離婚事件の際は必ず耳にします。

「婚姻費用」とは,配偶者を養う義務をお金で果たす際に支払うお金のことです。

そもそも,配偶者どうしは,お互いにお互いを養う法的な義務があります。

この「養う義務」は,夫婦で一緒に生活していれば,お互いにお金を出し合って暮らしているので,あんまり問題になりません。夫婦一緒に暮らしていれば,それだけで,普通は,「養う義務(「扶養義務」と呼ばれます)」を果たしています。

しかし,別居するとそうはいきません。別居すると,必然的に家計が別々になるので,ただ暮らしているだけでは,「養う義務」を果たすことはできません。

別居していても法律上は夫婦なので,お互いを養う法的な義務が消滅することはありません。じゃあ,別居している配偶者に対して,どうやって「養う義務」を果たすのかというと,お金を支払うのです。

「婚姻費用」としてお金を払うことで,夫婦が互いに互いを養う義務を果たすのです。

「婚姻費用として月額5万円支払う」というのは,「月額5万円を支払うことで,配偶者を養う義務を果たす」ということになります。

ここまでは「婚姻費用」の話でしたが,「養育費」もほとんど同じです。

支払う相手が配偶者ではなく子どもなのが「養育費」です。だから,「養育費」とは,子どもを養う義務をお金で果たす際に支払うお金です。

「婚姻費用」の場合と同様に,法的に親子であれば,親は子を養う義務があります。

この義務は,子どもが20歳になった後も続くのですが,20歳になった後は,養う義務が軽減されると考えられています。

子どもが19歳までは,親は,自分の生活レベルを下げてまでも,子どもに養育費を支払わなきゃいけない,と考えられています。19歳以下の子どもに対する親の「養う義務」って,これくらい重たいのです。子どもが20歳以上になれば,親は,自分の生活に余裕がある場合に,自分の生活レベルを落とさない限度で,養ってあげればそれでいいのです。

子どもが19歳までは,自分の生活レベルと子どもの生活レベルをイコールにしなきゃいけないという義務が課せられています。

まあ,親と子が一緒に暮らしていれば,生活レベルは一致するでしょうが,別居していてもなお,親と子の生活レベルは一致させなきゃいけないのです。

そうなると,親の負担はかなりのものです。

この負担は,「婚姻費用」も同じです。自分の生活レベルを下げて,そのぶん,相手の生活レベルを上げさせ,配偶者同士の生活レベルをイコールにするくらいのお金を,払わなきゃいけないのです。

一方配偶者ものとで,子どもが養育されているのであれば,子どもの養育費も合わせて支払います。

その金額がどれくらいなのかは,「算定表」を見れば一発でわかります。

ただ,↑の算定表を見ると,収入の目盛りはゼロから始まっているのですが,収入がゼロの場合,本当にゼロで算定してしまっていいのだろうか,というのが今日の問題意識です。

例えば,専業主婦だった妻が,夫と離婚する場合,専業主婦ですから,収入はゼロです。

収入がゼロであれば,ゼロの目盛りで算定表を見ればいいような気もします。

ただ,離婚するわけですから,収入ゼロではこれから暮らせなくなりますよね?

両親の援助があれば話は別ですが,離婚した後は,専業主婦としては暮らせません。自分で自分の生活費を稼いで生きていかなきゃいけません。

そうすると,離婚した後も,収入がゼロであり続けるのではなく,生活に必要な収入を得る可能性が高いです。

離婚するまでは,収入を得ていなくても,それまでの蓄え+婚姻費用で暮らしていけるかもしれませんが,離婚したら,婚姻費用は養育費まで減額されますし,19歳以下の子どもがいなければ,養育費すらもらえず,収入が途絶えてしまいます。

そのままでは生きていけないので,何らかの職について,生活費を工面しなきゃいけないわけで,それを考慮しないまま,現実の収入がゼロなので「ゼロ」と扱って,婚姻費用や養育費を算定していいのだろうか,というのが今日の話なんです。

この点は,過去の裁判例でも争われていて,専業主婦の収入が現実にはゼロであるにもかかわらず,将来の就労・収入が見込めるという理由で,収入が「ゼロ」ではなく,年収100万円程度みなして,養育費・婚姻費用が算定されたこともあります。

ただ,現実の収入はゼロなわけですから,就労・収入を得る可能性がそれなりに認められたこそ,現実の収入を大きく超えて収入が認定されたのです。

例えば,長年専業主婦であった妻が,年齢的にも(50代)就労の可能性がなく,現実的にも,家族の援助を受けて,働かなくても生活費に困らないというケースでは,現実の収入ゼロを基準に,養育費が算定されました。

この「就労の可能性・収入を得る見込み」こそ,タイトルにもあげた,「潜在的稼働能力」と呼ばれるものです。

ここまでは,養育費・婚姻費用を貰う側の収入がゼロというケースについてお話しましたが,養育費・婚姻費用を払う側の収入がゼロというケースもありえます。

このケースも,考え方は同じです。就労・収入の見込みがあるのであれば,見込まれる収入額を基準に,養育費・婚姻費用を算定します。

例えば,過去の裁判例には,うつ病を理由に退職して無収入となった夫に対し,妻が婚姻費用の支払いを求めたケースで,夫の現実の収入はゼロなのですが,今後,就労する見込みがあるという理由で,退職前の収入を参考に,平均賃金も考慮して,夫の収入を決めて,養育費・婚姻費用を算定したものがあります。

他にも,同僚の弁護士が扱った事案では,養育費・婚姻費用の支払いを回避する目的で退職し,自ら収入をゼロに追い込んだケースで,現実の収入はゼロですが,退職前の収入を基準に養育費・婚姻費用を算定した,というものがありました。

現実の収入がゼロであっても,必ずしも,収入ゼロを基準に養育費・婚姻費用を算定するわけではないようです。

【 まとめ 】

現実の収入がゼロであれば,その収入を基準に養育費・婚姻費用を算定するべきようにも思えますが,そう単純ではありません。

人間は,お金がなければ生きていけませんから,そういった生活費を得る手段が,誰しもあるはずです。

生活費を得る手段を,家族からの援助に頼り切ることができるのであれば,今後も「収入ゼロ」が続くのでしょうが,多くの場合は,そうはいきません。

自分で働いて収入を得て,その収入を生活費に使いながら生きていくのが普通です。

だから,「収入はゼロです!」で押し通せる場面は,そうそう多くないと思います。

収入がなくても暮らしていける理由,そして,その暮らしが今後しばらく続く理由を,きちんと根拠に基づいて説明できないと,「収入はゼロ」で押し通すことはかなり難しそうです。

それではまた明日!・・・↓

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