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#493 昨日の続き:遺産分割後に相続放棄できるか

【 自己紹介 】

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【 今日のトピック:遺産分割後の相続放棄 】

昨日は,遺産分割した後に相続放棄できるか,ということについてお話しました。

遺産分割したことが,「法定単純承認」である「相続財産の処分」に該当するかどうか,という文脈で話を進めましたが,最終的に,遺産分割で何も取得しないことになったら,その遺産分割に参加したとしても,「処分」には該当せず,相続放棄することができる,という結論をお話しました。

ただ,今日,ゆっくりと調査していると,どうも違うような気がしてきました。少しずつ説明します。

そもそも,「相続放棄」と「法定単純承認」は両立します。

どういうことかというと,「相続放棄」って,家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出すれば,それで完了するからです。

「相続放棄申述書」の提出を受けた裁判所は,特に問題がなければ,そのまま「相続放棄申述書」を受理するので,この受理によって,「相続放棄」自体は完了します。

ただ,「相続放棄申述書」の受理によって,相続放棄の手続き自体が完了したとしても,「法定単純承認」に該当するような事由,例えば,「相続財産の処分」をしていたら,相続放棄の効果,すなわち,「相続放棄したことによって,最初から相続人ではなくなりました!」という効果を主張できなくなるのです。

だから,「相続財産の処分」という「法定単純承認」があると「相続放棄ができなくなる」という昨日の説明は少し間違っていて,正確に言えば,「相続財産の処分」という「法定単純承認」があっても,「相続放棄」の手続き(=相続放棄申述書を最終的に受理してもらうこと)は可能なんだけれども,相続放棄を裁判所に受理してもらったからといって,「最初から相続人ではありませんでした!」と主張できない,というのが,正しい理解だと思います。

要は,「相続放棄申述書」を裁判所に提出しても,それだけで安心ではないのです。

「相続放棄申述書」を裁判所に提出しないと,相続放棄は完了しないのですが,ただ,「相続放棄申述書」を裁判所に提出しても,その後(または提出前)に,「法定単純承認」である「相続財産の処分」をやってしまうと,せっかく相続放棄申述書を提出したのに,相続放棄していないことになってしまうんです。

で,「遺産分割」をすると,普通は,遺産分割によって,何かしらの財産を取得しますが,財産を「取得する」ということは,不動産であれば自分の名義に変えたり,預金であれば解約して自分の預金口座に移したりすることを意味します。こういうのが「処分」に当たるのは間違いないので,仮に,「相続放棄申述書」を裁判所に提出したとしても,遺産分割によって不動産の名義を自分の名義に変更したり,預金を解約したりすると,相続放棄の効果(=最初から相続人ではなくなった)を主張できなくなります。

だから,遺産分割後に相続放棄するのは,普通難しいのです。

ただ,遺産分割の結果,何も取得しないことになった相続人は,財産を「取得」していないので,相続財産を「処分」しておらず,「相続放棄申述書」を裁判所に提出すれば,裁判所は受理してくれそうです。

でも,ですよ?

そもそも,相続放棄できるのは,亡くなったことを知ってから3か月以内です。

遺産分割が完了した時点で,既に3か月経過していることが大半だと思います。

そうすると,そもそも,相続放棄申述書を裁判所が受理してくれない,ということになりそうです。

裁判所は,基本的に,亡くなったことを知ってから3か月経過した後の相続放棄は受理しません。

相続放棄は,亡くなったことを知ってから3か月以内,と法律に書いてあるからです。

裁判所が相続放棄を受理してくれないなら,相続放棄しようがありません。相続放棄は,裁判所に「相続放棄申述書」を受理してもらって初めて効果が発生するので,「この人は亡くなったことを知って3か月経過した後に相続放棄を申述しようとしているから,受理できないな」と裁判所に思われたら,それでアウトなんです。

「相続放棄」と「法定単純承認」は両立する,と先ほど書きましたが,そもそも,「相続放棄申述書」を受理してもらえないなら,「両立」どころではありません。

そもそもの「相続放棄」が完了していないので,「相続放棄」の効果が発生しないからです。

じゃあ,亡くなったことを知ってから3か月経過した後は,一切,相続放棄を受理してもらえないかというと,そういうわけでもありません。

最高裁でも,亡くなったことを知ってから3か月経過した後の相続放棄が認められたケースがあります。

その事案では,亡くなった人にめぼしい財産がなく,相続人(子どもと妻)が遺産分割せずにいたところ,亡くなったことを知ってから3か月経過した後に,借金の督促状が届き,この督促状によって初めて亡くなった人が連帯保証人となっていたことが発覚しました。

こういう事案で,最高裁は,3か月経過した後の相続放棄を認めました。

ただ,遺産分割を済ませた後に相続放棄を認めた,という最高裁判例は,今日調べた限りでは,ありませんでした。

高裁レベルでは,いくつか事案があったのですが,見解は分かれていました。

1つは,遺産分割を済ませているということは,亡くなった人に財産があることを認識していたのだから,財産があることを認識しながら相続放棄しなかったのであれば,相続放棄させる必要はない,という理屈で,相続放棄を認めていませんでした。

もう1つは,遺産分割を済ませているものの,亡くなった人に多額の負債があることは,生前の交流の頻度などに照らして予測できないし,かつ,遺産分割によって何も取得しないことになったのであれば,借金の督促が届いてから3か月以内に「相続放棄申述書」を受理してあげてもいい,という理屈で,相続放棄を認めていました。

うーん,真っ二つに説が分かれています。

今日の調査結果を踏まえると,いったん遺産分割に参加してしまうと(遺産分割協議書に署名押印してしまうと),後で相続放棄できなくなる,と考えておいたほうがいいと思います。

相続放棄しようにも,そもそも裁判所が「相続放棄申述書」を受理してくれなければ,相続放棄することはできません。

遺産分割後は,遺産分割に参加したことそれ自体によって,裁判所が相続放棄の申述を拒絶する可能性がある,ということを考えておいたほうがいいでしょう。

【 まとめ 】

昨日の結論とは真逆になってしまいましたが,遺産分割すると,裁判所が相続放棄を受理してくれない,という可能性があるようです。

ただ,相続放棄を受理してくれる可能性もあるので,その可能性に賭けて,相続放棄申述書を提出することもアリでしょう。

相続放棄したいのであれば,相続放棄申述書を提出しなければ物事が始まらないので。

相続放棄申述書を裁判所が受理してくれたのであれば,遺産分割によって何も取得しないことになった相続人は,「相続財産の処分」をしていないという理屈(「法定単純承認」がないという理由)で,請求を拒めるでしょう。

大切なことなので繰り返しますが,遺産分割を完了している場合は,相続放棄をそもそも裁判所が受け付けてくれない可能性があるので,気をつけてください。

遺産分割協議書に署名押印する,ということは,後日借金があることが判明したとしても,その借金の請求を拒めなくなる,と考えておいたほうがいいでしょう。

それではまた明日!・・・↓

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