刑事事件の示談:弁護士の気持ち
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このブログでは、2019年7月にうつ病を発症し、それをきっかけに同年12月からブログを始めて、それ以降、600日以上毎日ブログ更新してきた、しがないサラリーマン弁護士である僕が、日々考えていることを綴っています。
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【 今日のトピック:示談 】
今は、児童相談所の常勤弁護士として働いていますが、弁護士になった当初は、いわゆる「街弁(マチベン)」として働いていました。
いろんな事件を扱いましたが、刑事事件もたくさん扱いました。
刑事事件では、「示談」することがとても多いです。
もちろん、示談するのは、被害者がいる犯罪だけです。被害者がいなければ、示談しようがありません。
というのも、「示談」って、被害弁償の約束のことなんです。
犯罪被害を受けた被害者に対して被害を弁償し、その被害弁償の条件について約束することが、「示談」です。
いちばん正式なやり方で示談する場合は、当然、「示談書」とか「和解書」とか「合意書」という題名の書面を作成した上で、
①犯罪事実の特定:○月○日、乙(犯人)が、甲(被害者)に対して暴行を加え、傷害を負った事件
②謝罪の受け入れ:乙は、甲に対して謝罪し、甲は、この謝罪を受け入れる。
③被害弁償金額及び支払方法の確定:本件の被害弁償金として100万円の支払義務があることを認め、これを、○月○日限り、乙名義の普通預金口座(〇〇銀行〇〇支店口座番号××)に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
④宥恕+被害届取下げ:甲は、乙に対し、本件の犯行を許し、被害届を取り下げる。
⑤清算条項:甲と乙は、甲と乙との間には、この示談書に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
こういった①~⑤の条項を書面に書き入れます。
④宥恕+被害届取下げについては、「許す」だけでなく、「許し、処罰を求めない」と書くこともあります。
要は、被害弁償金と引き換えに、犯行を許してもらったりとか、被害届を取り下げてもらったりとか、そういうのが、「示談」なんです。
ただ、「示談」というのは、状況によっていろんな条項がありえます。
「被害届を取り下げてもらわなければ示談じゃない」
「許してもらわなければ示談じゃない」
という話でもありません。本当に、いろんな形があります。
謝罪も受け入れないし、許しもしないけど、お金だけ受け取るとか、そういった示談もたくさんあります。
というか、「示談」って、いきなり示談書を送りつけるわけじゃありません。
「弁護士が示談してくれる」と思っている加害者が非常に多いんですが、示談は、被害者との約束事なので、最終的な示談に先立って、被害者と交渉しなきゃいけません。
僕が言うまでもありませんが、被害者は、犯罪の被害を受けているのです。
傷害罪なり、性犯罪(強制わいせつや、強制性交など)なりの犯罪被害を受けた被害者は、めちゃくちゃに傷ついています。
いや、本当に傷ついています。
加害者と被害者で温度差があることも多いのですが、その場合、加害者の想像を大きく超えて被害者の処罰感情が大きかったりします。
ここは強調しておきたいです。
そんな被害者が、簡単に示談してくれるはずありません。
「犯行を許す」とか「被害届を取り下げる」という示談を交わしてしまえば、犯人にとって有利に働くのは、被害者も素朴にわかります。
「ああ、この示談を交わしたら、犯人に有利に働いてしまうんだ」と、被害者も思うわけです。
だから、「お金は受け取るけど、謝罪を受け入れたり、許したり、被害届を取下げたりはしません」と言ってくる被害者もいるわけです。
こういう被害者の態度を、「被害者のわがまま」と思う犯人もいたりするんですが、いやいや、それだったら「最初から犯罪するなよ」という話です。
犯罪を犯した加害者が、被害者に対して、「お前ワガママだよ」と言えるわけないんです。
それを言ってしまったら最後、示談できないどころか、被害弁償金すら受け取ってもらえないまま、厳しい判決を受けてしまいます。
勾留されているのなら、被害弁償金すら受け取ってもらえないせいで、不起訴ではなく公判請求(正式裁判)となってしまうかもしれません。
公判請求となった後も、示談ができないせいで、保釈が認められないこともあるでしょう。
「示談しないのは被害者のワガママだ!」と思うのは勝手ですが、それを口にしたせいで、自分の勾留が長引いたり、厳しい判決が出るのは受け入れるほかありません。
犯人がとても厳しい立場にいることは、ここまでの説明で理解していただけたと思います。
だから、弁護士は、とにかく、低姿勢で示談交渉に臨みます。
ある程度のお金を、犯人(又はその家族)から預かり、その金額の範囲で、なんとか示談をまとめる。それが、弁護士の仕事です。
じゃあ、弁護士は被害者の言いなりかというと、そうではありません。犯人から依頼を受けているわけですから、どれだけ低姿勢であっても、必ず犯人の方を向いて活動しています。
例えば、腕にあざができるほど強く殴った傷害事件が起きたとしましょう。この場合、そのあざが完治してしまっているのであれば、被害弁償金の額も、それほど高額にはなりません。
例えば、1000万円もの被害弁償金を支払う必要はありません。
しかしながら、被害者が、こういった法外な被害弁償金を要求してきて、「これだけ支払わないのなら、示談は一切お断りです」と言ってくることもあります。
それでも示談しちゃう、というのも1つの手ではありますが、無い袖は振れないので、示談できない場合もあるでしょう。
その場合は、示談しなくても、適切な被害弁償金を用意して、示談の申し入れをしていれば、示談ほどの有利な事情にはなりませんが、有利な事情として、裁判所も考慮してくれます。
「被害届を取下げたくない」
「許したくない」
という被害者の思いは、「ワガママ」ではないのですが、法外な請求は「ワガママ」です。
だから、被害者が、「まともな」対応をしている限り、とても低姿勢で交渉しますが、まともでないなら、犯人から依頼を受けた弁護士として、毅然と対応します。
まあ、被害者だって、弁護士が、「犯人の弁護士」だということはわかっています。
いわば、「敵同士」で、そんな弁護士の言うことをおいそれと聞いてもらえるわけないんです。
だから、示談交渉は、本当に気を使います。しかしながら、弁護士は犯人から依頼を受けているわけですから、示談という結果も残さなきゃいけない。
いやあ、本当に難しいです。
なんか愚痴っぽくなってしまいましたが、示談に向かう弁護士の気持ちが少しでも伝わったら嬉しいです。
それではまた明日!・・・↓
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